せとうちのしおり♯5

上からみると、まるで船のスクリューのような形。
粟島は、もともとあった3つの島が潮の流れでつながってできた島です。
その周囲は16km。
島内には5つの集落が点在していて、集落ごとに魅力があり、場所によってざまざまな景色を楽しむことができます。


そんな粟島を定期船でゆっくり、島内の2つの港に立ち寄りながら1日かけて島さんぽ。


まずは、三豊市詫間町の須田港から定期船に乗り込み、粟島港で乗り換えて上新田港へ。
粟島の人たちがその昔食べていたという茶粥をいただきます。

港で出迎えてくれたのは、民宿で茶粥を提供している宮崎由美子さん(写真左)と、由美子さんを手伝う松田悦子さん(写真右)。

茶粥とは、お米をお茶で炊いたお粥のこと。
その昔、粟島やその周辺の島々ではお米が手に入りにくかったため、少ないお米をお茶でふやかして満腹感を得るためつくられるようになったと言われています。


「私たちの子どものころは食べていたんよ」と由美子さん。
当時は、高知県の山間部でつくられる発酵茶「碁石茶」でつくっていたそうです。

やがて、生活様式が変わり、いつのまにか茶粥を食べることはなくなりました。


そんな茶粥が復活したのは、悦子さんのふとした一言がきっかけでした。

瀬戸内国際芸術祭で瀬戸内の島々を訪れる人が増え始め、由美子さんが粟島でも名物となる何かを提供したいと考えていたとき、悦子さんが「粟島の味を知ってもらうなら、茶粥を出したらええよ」とアドバイスをしたのです。


今は碁石茶が希少になったため、近所で自生するハブ茶でつくっています。

「茶粥は島の日常食。やから、近所で手に入るものでつくるんや」と悦子さんは言います。


茶粥のつくり方は、沸騰したハブ茶に生米を入れて20分ほど炊くだけ。
「お米に芯が残るくらいで仕上げるとちょうどええよ」と悦子さん。

茶粥をさらさらと口に流し入れると、香ばしくてほろ苦いハブ茶とともに、お米の甘さがじんわりと広がりました。

お腹が満たされたら、上新田港から10分ほど船に乗り粟島港へ。
5分ほど歩いたところにある「粟島芸術家村」を訪ねました。


三豊市では毎年、若手芸術家を招いて創作活動を支援する「粟島アーティスト・イン・レジデンス(AIR)」という取り組みが行われています。

もとは粟島中学校だった木造の校舎が作家たちのアトリエです。
夏には、島の人たちをここに招待して、完成した作品を発表するなど、活動の拠点にもなっています。


門には、「日々の笑学校」と書かれています。
これは、AIRのディレクターであるアーティストの日比野克彦さんがここでアートプロジェクトを行った際に制作したものです。

今年のAIRは、東京から大小島真木さん、インドからマユール・ワイェダさんが訪れ、粟島で暮らしながら作品を制作しています。


「豚などの動物の革を縫い合わせてクジラの形をつくり、そこに多様な生物を描いていきます。粟島は、海と人の関わりが印象的なので、作品では、海、山、森といった自然や動物と、私たちがつながっていることを表現できればと思っています」と大小島さん。
動物の革を床いっぱいに広げて絵を描いていました。

マユール・ワイェダさんは、紀元前3300年からワルリ部族が描いてきたワルリ画の作品を制作しています。
「粟島は外洋船員が多かったという歴史があり、独特の文化が醸成されてきた島です。作品では、そんな歴史や文化にまつわるストーリーを描きたいと思います」とマユールさんは言います。


ここには、ほぼ毎日のように島の人が訪れ、差し入れをしたり作業を手伝ったりするそうです。
また、マユールさんが島の人たちにインドのチャイをふるまうこともあるとか。

粟島芸術家村を出て少し開けた道に出ると、水色の壁が印象的なレトロな建物に出会いました。粟島海洋記念館です。


粟島には明治30年に日本初の海員養成学校が設立され、多くの外洋船員を輩出しました。
大正9年に建設された木造の校舎が記念館として今でも残り、粟島出身の船員たちが寄港した外国の様子や、船上での生活風景などがパネル展示されています。


ここに、瀬戸内国際芸術祭の作品「ソコソコ想像所」(瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト)があります。

展示されているのは、アーティストの日比野克彦さんが粟島沖などを潜水して引き揚げてきた海底遺物の数々。
一つひとつをじっくりと見たり、部屋をぐるりと見渡したりしながら、海の底に広がる世界に思いをめぐらせることができます。


気がつけばすっかり夕暮れ。
粟島にはこの時期限定の夜のお楽しみがあります。
それは、ウミホタルが織りなす光のショー。

宿泊施設「ル・ポール粟島」で宿泊者限定の鑑賞ツアーに参加すると、ウミホタルが輝く幻想的な風景を鑑賞することができます。

ウミホタルが見られる時期は6月〜9月なので夏の思い出づくりにいかがですか。


夜までたっぷり満喫できる粟島。1泊してゆっくりと過ごしてもすてきな島です。