せとうちのしおり #9

犬島精錬所美術館、犬島「家プロジェクト」、犬島 くらしの植物園など、ベネッセアートサイト直島が運営するアートがあることで知られる犬島。
古くは良質の花崗岩が産出される島として知られ、切り出された石は大坂城の石垣や鶴岡八幡宮の鳥居など、全国へと運ばれていきました。

犬島の周囲は約4キロ。
坂道はあるもののゆるやかなので、1時間あれば、歩いて島を散策することができます。
犬島精錬所美術館や、集落に点在する犬島「家プロジェクト」、犬島 くらしの植物園をめぐる時間に、もう1時間プラスして、島の暮らしやあちこちに残る石の島の記憶をたどりながら、てくてく歩いてみませんか。

船の時間を確認してから散策すると、安心です。

※ベネッセアートサイト直島とは、直島、豊島、犬島を舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人福武財団が展開しているアート活動の総称です。
※犬島精錬所美術館、犬島「家プロジェクト」、犬島 くらしの植物園の鑑賞にはチケットが必要です。また、アート施設内での写真・動画撮影はご遠慮ください。

犬島精錬所美術館/ 写真:阿野太一

石の島・犬島が最も活気にあふれたのは、大阪築港の石が切り出された明治時代。
多くの石屋職人や船乗りたちが訪れ、そのにぎわいの様子は「築港千軒」と呼ばれたそうです。

その後、1909年に銅の製錬所が操業を開始。
約10年で閉鎖された製錬所は、その後、ベネッセアートサイト直島の活動により、2008年にその遺構を保存・再生した美術館「犬島アートプロジェクト『精錬所』(現:犬島精錬所美術館)」へと生まれ変わりました。

港から歩いて2分ほど。
左手に商店が見えてきたら、山を見上げてみてください。

石でできた小さなかわいい家のようなシルエットが見えます。
古くから島の採石業者の守り神として信仰を集めている「山神社」です。
かわいいシルエットの正体は大灯篭跡。
その昔、灯台の役目を果たしていたとか。

大灯篭跡は、山神社の裏側の方、鳥居をくぐって右上の方を見ると見つけることができます。
石段をのぼると、瀬戸内海や犬島の集落が一望できます。

犬島「家プロジェクト」F邸 /写真:Takashi Homma

隣には、犬島「家プロジェクト」F 邸があります。

犬島を歩いていると気づくことがあります。
それは、石垣がきれいだということ。少しピンクがかったようにも見えるし、オレンジがかっているようにも見えます。


「雨にぬれると、色が変わるんよ」。
島の方が教えてくれました。

そう聞くと、晴れた日はもちろん、雨の日に犬島を散歩するのも楽しくなります。


ところで、犬島はなぜ犬島と呼ばれているのでしょう。

昔、瀬戸内海で嵐に遭い、船から投げ出されそうになった菅原道真が犬の声に導かれ、難を逃れたそうです。
ふと見上げるとそこには大きな石が。
かつての道真の飼い犬が、犬石となって命を助けた、と伝えられています。
いまその石は、犬島のそばにある犬ノ島に「犬石様」として祀られています。

犬ノ島には、年に一度5月3日の犬石祭りの時だけお参りすることができます。せっかく犬島に来たのに、犬石様に会えなくて残念と思った方、大丈夫です。

島の西側にあるオリーブの歌碑や岡山市立犬島自然の家周辺、犬島 くらしの植物園から目を凝らして犬ノ島を見ると、全身は見えませんが、犬石様の姿が少しだけ見えます。

犬島「家プロジェクト」S邸やA邸、中の谷東屋などを鑑賞しながら、石垣の美しい小径をさらに歩きます。

※A邸は展示替えのため、8/13よりご鑑賞いただけません。


犬島診療所を過ぎて、少し小高い場所にあるオリーブの歌碑を越えたら、右側に長い石段と鳥居が見えます。
島の氏神様、犬島天満宮です。
犬島天満宮にお参りしたら、そのまま細道を下って、海の方へ。


途中、校舎のような建物が見えてきます。
旧犬島学園(幼稚園、小・中学校)を利用してつくられた宿泊施設、岡山市立自然の家です。

島を歩いて少しお腹がすいたなと思ったら、島内にあるカフェや商店へ。
昔から島で食べられていた家庭料理「ゲタ(舌平目)のかけ汁」をアレンジした丼ぶりが食べられるお店や、島に移住した人が営むカフェなどがあります。
(不定休や週末だけオープンのお店もあるので、行く前に確認しておくと安心です)。

島の西側を散策したら、オリーブの歌碑までもどって、犬島「家プロジェクト」C邸やI邸へ。

また島の南側には、瀬戸内の島々をながめながら海水浴が楽しめる犬島海水浴場や犬島キャンプ場もあります。


石垣の風景を楽しみながらの島散歩。
その間に、いくつもの池に出会います。

実はこの池は採石場の跡。
山などを切り崩し、地中深くまで掘られた跡に、雨水などがたまってできたそうです。

犬島「家プロジェクト」I邸を鑑賞し、港に戻る途中に出会う大きな池も、もとは祇園山という山だったとか。
港近くの海中には、まんまるお団子みたいな大きな石がごろごろ。
よく見るとノミの跡が残っている石もあります。


島の暮らしや歴史をたどりながら歩くと、アートがさらにおもしろくなるかもしれません。
自分だけのお気に入りの景色を犬島で見つけてください。


犬島のアート施設について、詳細は「ベネッセアートサイト直島」ウェブサイトをご覧ください。
http://benesse-artsite.jp