せとうちのしおり #25

今回のてくてく島さんぽは小豆島の草壁港からスタート。小豆島の食をテーマに3軒の店をめぐります。

草壁港からすぐ、目を引く木造の建物があります。
これは瀬戸内国際芸術祭2016で作品として展開されたジェラート店。
実は今回ご紹介する飲食店は、どこも瀬戸内国際芸術祭2016がきっかけで生まれた店なのです。

扉を開けるとショーケースに並ぶジェラートが美しいアートのよう。イチジクやカボチャ、焼きナスに酒かす味まで、色とりどりのジェラートがずらり。

「使う食材は小豆島産が多いです。オリーブ、しょうゆなどは小豆島らしいメニュー。冬は柑橘やイチゴが人気です」

ジェラートを盛り付けてくれたのはオーナーの渋谷信人(しぶやのぶと)さん。
渋谷さんはすぐ近くのイタリアンレストランのオーナーシェフでもあります。

イタリアンのシェフがなぜジェラート店を?

「ジェラートは元々、レストランのデザートとして出していました。でもうちのレストランは予約制で、提供できる数に限りがあるんです。小豆島の食材はすばらしいので、もっと気軽にたくさんの人に味わっていただきたいという想いがあって。年齢問わず食べられて、食材もいかせるジェラートがぴったりだと思ったんです」

ジェラートをいただくと、素材の味がしっかり感じられ、甘すぎず、いくらでも食べてしまいそうなおいしさです。

「瀬戸内国際芸術祭で島が盛り上がるなか、自分も何かしたいという想いもあって、町に作品としてジェラート店を出せないかと提案したんです。瀬戸内国際芸術祭2013で面識があった大阪のクリエイティブユニットgrafと組んで、店のコンセプトを考えたり、食をデザインに落とし込んだらどうなるかを話し合ったりしました。この建物は港もバス停も目の前だし、前を通るたびにいい物件だなぁと思っていたんですよ」

港は島の玄関口。
ジェラート店とはいっても、船の待ち時間にコーヒーを飲み、軽食を食べることもできます。

「観光に来ても、港の近くで一息ついて島の情報が聞けるような場所がなかったんですよね。2011年に兵庫県の西宮から移住したころは、島に飲食店が少なくコンビニで昼食をすませる観光客が多かった。それってもったいない、どうにかできないかと思っていました。このジェラート店は、同じ想いをもった人たちに共感、協力してもらって実現したんです。島にある経済を循環できるようにして、さらに外貨も稼いでいけるよう、小豆島で自分ができる役割をやっていきたいなと思っています」

次に向かったのは、同じく草壁港から近い創作郷土料理の店。
モダンに改修された古民家の大きな窓からは穏やかな海が見えるロケーションです。

こちらは郷土料理といえど、一風変わったメニュー。
『二十四の瞳』で有名な小豆島出身の作家・壺井栄さんの本に登場する料理を、再現したものなどが味わえます。

定食をいただくと、品数の多さと手の込んだ料理の美しさに思わず歓声が。
この日の前菜は太刀魚の背ごし、芋ねり、なんきんふし。
例えば芋ねりは、『曆』という本のなかで職人たちの夜食にふるまわれていたそうです。

オーナーの岸本等(きしもとひとし)さんは小豆島出身。
2010年に島にUターンし、佃煮会社で働いていたとき、奥様が見つけてきたのが「瀬戸内『食』のフラム塾」のチラシでした。
これは総合ディレクターである北川フラム氏が講師をつとめ、瀬戸内国際芸術祭2016 で食にまつわる企画を担う人材を育成するための塾。

「講座では座学をしたり調理実習をしたり、合宿したり。印象に残ったのは、フラムさんのコラムを読んだときに世間師(しょけんし)という言葉があって、昔は他の地域にいって見聞きしたものを地方に持ち帰って広める人がいたという内容だったんです。小豆島の文化やしょうゆ、ゴマ油、オリーブなどの歴史ある食産業は世間師のような人々によって持ち込まれ、新たに発展してきた。その歴史を絡めて何かできないかと企画を練りました」

たくさん出された塾生の企画の中から岸本さんの案は、「本からうまれる一皿」というプロジェクトとして実現することに。

「『本からうまれる一皿』は、壺井栄さんの本に出てくる料理を再現して、食べてもらうという企画。多くの島の方々のご協力に加え、聞き取りをしたり、文章を書いたり、映像を作ったり、いろんな技術に特化した人が必要だったので、塾のメンバーにも役割分担して関わってもらいました。実は塾に応募したときは、店を持つという考えはなかったんです。ただ、イベントを重ねるなかでたくさんのメニューが再現されたのに、味わうことができる場所がない。たくさんの味が忘れられていくのはもったいないので、それを残したいと思って開店することにしました」

選んだのは、『二十四の瞳』の最後に船を漕いで行くシーンで、出発点となった場所。
古民家を改修し、2017年7月、岸本さんは店を開きました。

「来ていただいた人たちに、文学、歴史ある食産業や旬の食材など、さまざまな面から小豆島を感じていただきたいと思っています。地元で店を開くことができて、『本からうまれる一皿』で培ったものをいかせて、今は島のものを少しでもPRできているのが幸せです」

最後に訪れたのは、岸本さんと同じくフラム塾の卒業生が土庄町に開いた店。
店の一押しは生搾りジュース。この日のメニューは「長命草と白ぶどう」と「柿と赤ぶどう」。
飲んでみると、さわやかで栄養が体の隅々まで行きわたるような感覚に。

「一杯のジュースに5~6種類の小豆島の旬の食材を使います。このジュースにはいろんな情報が詰まっているんですよ。例えば“長命草ってなんですか”“島でぶどうが採れるんですか”って聞かれると“実はね……”って話が広がります」

元々、オリーブの勉強がしたいと小豆島を訪れていた河端直之(かわばたなおゆき)さん。
小豆島の農業関係者と知り合いになり、島にはたくさんの食材があるけれど、観光客がそれを味わう場所が少ない。一方では、規格外の野菜や果物がたくさん余って捨てられている。それをうまくつないで、接点をつくりたいという想いがありました。

「フラム塾の募集はたまたま見つけたんです。塾に参加すれば、小豆島で何かできるかもと思いました。前回の塾のテーマは食難民をどう救済するかということ。食難民というのは島ごとに違いがあると思うけれど、小豆島で考えると、自転車で忙しく移動する観光客が多いのでゆっくり島の食に触れる機会も少なく、島の食の情報発信も少ないと感じました。小豆島の食の魅力を、うまく伝えられていないことが課題だと思ったんです。僕は大阪の人間だし、料理のプロではないので、島の農家さんと相談しながら企画を出したら通ったんですよね」

河端さんは瀬戸内国際芸術祭2016の期間中に店をオープンし、今も大阪でデザイナーをする傍ら小豆島に通っています。
自身の店のデザインはもちろん、農家さんからもホームページやロゴを作ってほしいと仕事を受けることがあるそう。

「あえて移住せず、外の目線で、小豆島の食材を売り込んでいきたい。捨てられていたものがお金になるように地産外消をしたいと思っていて、大量に仕入れた食材は、東京の生搾りジュース店に送ったりもしています。店では農家さんの代弁者として、観光客との接点になりたい。僕が知っている農家さんの話を詳しくすれば、聞いた人は興味が出て食べてみたくなるじゃないですか。瀬戸芸のお客さんは時間がないので、ジュースなら小豆島の旬の味覚が一口で体験できると思うんです」

芸術祭をきっかけに始まった3つの店は、時を重ね、地元に定着し、今も新しい物語を紡いでいます。

来年、瀬戸内国際芸術祭2019に向けて、フラム塾の取り組みはすでに始まっています。
今回のテーマは、「地域型芸術祭のつくられ方」。
より深く芸術祭のつくられ方を学び、地域づくりやイベント運営などのプロフェッショナルを育成する内容です。

また、島同士のネットワークが広がるよう「島間交流」や、子どもたちと地域の活性化について考える「学校連携」にも取り組んでいます。
さまざまな人と芸術祭を盛り上げていくことで、芸術祭や地域の活性化を支える担い手が育ち、新しい展開へとつながっていくはず。

2016から2019へ、さらにその先へ、続く想いと新しいストーリーを、瀬戸内の島々で感じてみてください。