Directors Blog #13




 明日からの瀬戸内国際芸術祭2022秋会期、西の島々の作品は気合が入っています。

 本島の笠島ではタイのアリン・ルンジャーンが古い家で一階が赤、二階が白い紐を使ったしっかりした作品を作り、藤原史江は石をチョークの様に使い壮大な絵を描き、川島大幸は使われる石と使われない石など、石を様々な要素から考える面白いプロジェクトを見せてくれるし、ポーランドのアリシア・クヴァーデとルクセンブルグのツェ・スーメイの傑作も古い立派な民家で健在です。その他、ロシアのアレクサンドル・ポノマリョフの風で揺れる船、斎藤正の版築の家、DDMY STUDIO(タイ)のロボットの家もあり充実しています。特に昨年亡くなった古郡弘の《産屋から、殯屋から》は今も圧倒的な力で自然と繋がっていた私達の来し方を見せてくれています。

アリン・ルンジャーン《石が視力を失っていないように、盲人も視力を失っていない。》




 高見島では、12名のアーティストが丁寧な仕事をしていますが、特に村田のぞみのステンレス線プロジェクトと藤野裕美子の日本画、鈴木健太郎の千社札、鐵羅佑の古い鉄の空間は見事な空間になっています。内田晴之とケンデル・ギールのオブジェが存在感があったのはさすがだと思いました。

村田のぞみ《まなうらの景色2022》




 特に報告したいのは、多度津の古い町並みにある旧合田邸の歴史の展示と尾花賢一の《海と路/一太郎やあい》です。これは古いタバコ屋を使ったもので戦争中、教科書にも取り上げられた愛国美談が、事実、地元では悲しい話だったという、民衆のレベルの話を実際の印刷と作家のコメントとの微妙なズレの中に見るという、新しい、画期的な試みであることをお知らせしておきます。また、山田悠の《Nocturne(Tadotsu)》という月プロジェクトは多度津の街から撮った月の変化を見るものです。

尾花賢一《海と路/一太郎やあい》




 粟島では特に、西浜にある2つの作品、アデル・アブデスメット(モロッコ)の《「い・ま・こ・こ」》というローソクの火が消える映像は古民家の中で妖しげな力を持っていたし、イタリアのマッシモ・バルトリーニの《スティルライフ》は草花でいっぱいの庭に池を掘り、そこに美しい陶磁器を浮かべるというものですが、かつては花瓶に花を活けて静物画になったものが、逆に空っぽになって外界が豊かになるというもので素晴らしいコンセプトです。粟島芸術家村には佐藤悠と森ナナの新作が登場する他、日比野克彦の《種は船 TARA JAMBIO アートプロジェクト》の船も活動します。

マッシモ・バルトリーニ《スティルライフ》




 伊吹島はKASA/KOVALEVA AND SATO ARCHITECTSが旧伊吹小学校で「島の庭」「海の庭」という美しい空間を作る他、サウジアラビアのマナル・アルドワイヤンが古い木造の造船所で、漁に出る男衆の無事を祈る中東と日本の女衆の思いを込めた空間を作りますが、圧倒的な空間になりそうです。約100年前に設置された古い郵便局を使ったインドネシアのアーティスト集団ゲゲルボヨが圧力のある作品を作っている他、メラ・ヤルスマ + ニンディティヨ・アディプルノモのユニットが《パサング》というファッションを民俗資料館や小学校で見せてくれます。

KASA/KOVALEVA AND SATO ARCHITECTS《ものがみる夢》




 最後に明日から女木島の小谷元彦の《こんぼうや》がオープンします。力作です。明日9月29日(木)の10:40からアーティスト・トークがあります。必見です。

 以下は小谷さんが作品に寄せた文章です。


この国にとって人間が変幻した鬼という霊的キャラクターは重要なものであることは言うまでもない。過去、鬼は人間の怨霊の化身として現れることもあれば、その反対に元三大師のように疫病神や悪霊を追い払う高僧が鬼に変幻した例もある。善悪の二項対立を無効化し、超越するその正体不明の存在を私なりに解釈をし直しこの店を開くことにした。
まず「こんぼうや」では地獄絵などで鬼がもつ棍棒を参照し、木彫りで創作した。木製の棍棒とは、敵や闇を追い払う道具であり、人類最初の木彫だったとも考えられるだろう。
「こんぼうや」は古からの日本人の潜在意識を顕在化させ、記憶の集合体を現実に還元する試みである。今後、店は地獄へ行くかどうかの人間のためオープンされる。       

店主 小谷元彦(美術家・彫刻家)

小谷元彦《こんぼうや》




2022年9月28日
瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター 北川フラム