空から見ると船のスクリュー型の粟島。粟島港には須田港からフェリーで15分で到着します。

明治時代に日本初の海員養成学校が誕生した三豊市の粟島。かつて船乗りになるために多くの若者が島にやってきたことから、島には若者を受け入れる文化があります。

旧粟島中学校を拠点とする「粟島芸術家村」では、2010年から市の主導により、若手アーティストが島に滞在し、島民と交流しながら一緒に作品を作り上げています。文化芸術による地域活性化を目的としている取り組みです。

aw01《瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト 一昨日丸(おとといまる)》 日々野克彦

瀬戸内海周辺の海底遺物を探し、展示する「瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト」。その作品の一つ、「一昨日丸」は海に浮かぶ美術館です。化石、コップ、靴など、海底から引き揚げられた遺物とその関連の品々を展示しています。土日祝日には乗船できる運航イベントを開催しています。

運航イベントでは約30分間、船に乗り、粟島沖を旅します。運航途中で停止して、参加者は目を3分間閉じて、船に搭載されたクレーンのワイヤロープが海底までどのように辿り着くかを想像します。この想像した光景を描く企画も楽しめます。

オレンジ色でほぼまっすぐな線を描いていたのは、東京からお越しの40代男性。「瀬戸内海の穏やかさをイメージしてこの線を描きました。こんなにゆったりとして綺麗な海は世界的に見てもここしかないと思います。この船旅では感性が研ぎ澄まされ、心が落ち着きます。」と嬉しそうに語っていました。

高松から来た小学3年生の男の子は、線が渦を巻くように虹色で描きました。男の子は「これは海が見てきた美しい記憶の線だよ。」と目を輝かせていました。

丸亀から訪れた40代女性は「船が止まっている時、波の音や起伏がとても心地よくて、胎内にいるような感じがしました。」とほほ笑んでいました。

aw04《粟島芸術家村》 佐藤悠、森ナナ

粟島港から徒歩約5分。「粟島芸術村」では、若手アーティストが今年の6~9月の4カ月間、島に滞在して、島の人や島に訪れた人と交流しながら作品を作りました。自身も制作に参加した70代の島のおじいちゃんは「この島にはよそから来た人を受け入れる雰囲気があります。みんなで力を合わせて完成した絵画をじっくりみてみてね!」と強調します。

粟島大絵地図 佐藤悠

幅10メートルの巨大な絵地図は、島民やボランティア、観光客がそれぞれ思い浮かべた粟島のイメージがつなぎ合わされ、1つの作品に仕上がっています。緑や黄緑、濃い緑、ピンク、赤まで彩られた山。綺麗な魚や波が描かれた海。さまざまな島の風景を楽しむことができます。

絵に夢中になっていたのは、愛媛から訪れた小学3年生の女の子。「とてもカラフルですごくきれい!いままで歩いて見てきた風景もかわいく描かれているね~。」と喜んでいました。

作品作りに参加し、山の模様を描いた丸亀から来た60代女性は「見事な仕上がりに驚きました。いろんな人が描き加えたのでぐちゃぐちゃしそうだけど、統一感があるからなんだか不思議ですね。」と感動していました。

横浜からお越しの40代女性は粟島への訪問が今回で3回目。「粟島は自然がのどかでほっとするんです。島の人が親切で居心地が良く、何度でも訪れたい島です。この絵は、そんな粟島の象徴だと思います。ずっと見続けていたい景色ですね。」と笑顔を見せていました。

いのちの声を聴く 森ナナ

作家の森さんは、粟島で島の人の狩りに同行。そこで獲れたイノシシから採れる膠(にかわ)と竹の煤(すす)を原料に墨を作りました。その墨を人に塗り、紙に人の姿を写し取りました。

万歳のポーズをとるのは三豊市から来た50代女性。「人の姿が今にも動き出しそうです。とても迫力があり、命を感じます。自分も体に墨を塗って描いてみたいです。」と生き生きと話していました。

東京から訪れた30代女性は「人の姿は、生き埋めになってポンペイの遺跡から見つかったような感じがします。とても斬新で驚きました。」と語っていました。

aw06《思考の輪郭》 エステル・ストッカー(イタリア/オーストリア)

さらに歩いて2分進むと、旧粟島幼稚園の中庭が白く塗られ、黒い線が描かれています。黒い突起もあります。

色々な角度から模様を見つめるのは三豊から訪れた20代女性。「白と黒の世界はシンプルだけど、はまってしまいます。目が錯覚し、段差があるのが分からなくなるのも面白いです。」と嬉しそう。

愛媛から来た20代女性は「規則的でない模様が楽しいです。実際に見るより、写真で見た方が立体的に感じるのが不思議です。」と写真を見返す楽しみを話してくれました。

aw13《「い・ま・こ・こ」》 アデル・アブデスメッド(アルジェリア/フランス)

旧幼稚園から港の反対にある西浜を目指して徒歩約10分。古民家に靴を脱いで入り、暗い部屋の中を進んでいくと、ロウソクと足元を映した映像が現れます。画像をしばらく眺めていると、「バンッ!」という音とともにロウソクが足に踏み潰されるシーンが繰り返されます。

大阪に住む70代南アフリカ人男性は「ロウソクには生きる力を感じたので、消えた瞬間は悲しい感じがしました。」さらには「子供の頃、ロウソクのあかりを頼りに勉強していたので、とても懐かしかったです。この家のひっそりとした雰囲気に合った映像ですね。」と話していました。

何度もこの映像を眺めるのは福岡から来た20代女性。「日本ではロウソクは吹き消すもので、足で踏むという発想がないと思います。異世界にいるような感じがして、とても面白かったです。」と驚いた表情でした。

高松から訪れた50代女性は「タイミングは自分では分からないけど、いつか突然死ぬかもしれない。実は死ぬために生きているんだということを実感しました。」と語っていました。

aw12《スティルライフ》 マッシモ・バルトリーニ(イタリア)

古民家の隣の草むらを進んで現れる池には、蓮(ハス)の花が描かれた花瓶が浮かべられています。伝統的な西洋絵画の題材とされる「静物」(スティルライフ)の代表的なモチーフは、室内に置かれる花瓶です。この「静物」の内と外が逆転。花瓶の外に水、その外には植物(エビスグサ)の群生が広がります。

池をじっくりと眺めるのは、新潟から来た40代男性。「瓦(かわら)を使って池を作るという発想が斬新ですね。秋ならではの虫の声と調和する癒しの空間です。」と笑みを浮かべていました。

粟島を訪れるのは今回で3回目だという福井に住む40代女性は「この作品には圧倒されず、緊張感を抱かないからこそ、自然体でアートに親しむことができます。内と外を逆転させた発想に初めて触れ、楽しめました。」さらには「雨の時も想像すると楽しくなります。水面に波紋が美しく広がっていきそう。ずっと眺めていたいアートです。」と語ってくれました。

aw01《瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト Re-ing-A》 日比野克彦

西浜が見えてくると、レンガで作られたゾウが海に浮かんでいるのに気づきます。このレンガは、粟島沖の海底に沈んだ船から引き揚げたものです。

砂浜にしゃがんで撮影に励むのは千葉からお越しの40代男性。「美しい砂浜に綺麗な海、広くて澄み切った青空、穏やかな波。こんな絶景はそう見られるものではありません。ゾウが海に浮かんでいるのはシュールな印象ですが、周りの景色に溶け込んでいて楽しいです。」と笑顔でした。

「あのかごを解放すると、ゾウがただのレンガとなり、ゴミとして海に流れてしまいますね。」と話すのは丸亀から来た40代女性。「海の中は見えませんが、魚たちがゴミを食べたらどうなるか。あのゾウは私たちに、地球環境のことをきちんと考えないといけないという警鐘を鳴らしているんだと思います。」と語っていました。

明るい雰囲気の粟島。島のどこかに寛容さを感じます。
(続く)