Directors Blog #11
8月5日、瀬戸芸夏会期開祭です。コロナ禍のなかで、前回の最盛期のような船待ちで並ぶということもないのですが、それでも海を渡る、島の爺さま婆さまと会える、瀬戸内の食事が摂れる喜びで高松港は元気です。私は昨日、雨が時々、気持ちよくチラつく中を女木島・男木島をお客様をご案内して巡り、今日は小豆島ツアーのガイドです。
まずは、2つの島のご案内。
作品巡遊(男木島)
村山悟郎の〈生成するドローイング-日本家屋のために2.0-〉。古い2階建ての民家に、島の植物、貝などが日本画による螺鈿や油絵の点描のように微細に描かれているというよりは輝くがごとく発光しているようです。前回からの描く時間の永さが作品を作っていて見る人をうならせてくれます。
エカテリーナ・ムロムツェワ〈学校の先生〉。ロシア出身の若手のエースですがNYに移住していて、ロシア軍のウクライナ侵攻に抗議して、顔を隠し黒い服を着て、反戦の意志を表す女性たちのドローイングを今開催中の越後妻有の〈大地の芸術祭〉に出展していますが、男木島では丁寧な動画によるオリエンテーションをして子供たちに〈私の先生〉を描いてもらっています。この絵がイキイキしていてとても良い。その他、島の大人達の〈自画像〉があり、彼女自身が描いた〈教え、学ぶこと〉の絵もあって、小さな民家がイキイキと再生しています。
〈学校の先生〉エカテリーナ・ムロムツェワ
豊玉姫神社の近くにある美術家・大岩オスカールと建築家・坂 茂による〈男木島パビリオン〉に昇る道には、この他、最近彫刻庭園が開館した川島猛の〈瀬戸で舞う〉や松本秋則の〈アキノリウム〉、大岩オスカールの部屋空間がひっくり返った〈部屋の中の部屋〉や漆の家プロジェクト、台湾からやってきたワン・テユの楽しい空気膜があって、迷路の昇り坂を汗をかきかきの苦あり、昇るところに飲みもの食べものもあって楽ありです。
さて、その〈男木島パビリオン〉ですが、全体は12月竣工ですが、二段或は四段重ねの海と絵画の新しい試みは被災地や難民キャンプで活躍する紙管による柱と梁によって気持ちが良い瀬戸内ならではの作品になりました。大岩オスカールは第1回目から瀬戸芸・男木島とは縁の深い作家です。
〈男木島パビリオン〉大岩オスカール+坂 茂
この他男木島には港からTEAM男木の〈タコツボル〉や、眞壁陸二の〈路地壁画プロジェクトwallalley〉や新作〈蓮の家〉、スペインのジャウメ・プレンサのコミュニテイスペース〈男木島の魂〉、ブラジルのレジーナ・シルベイラの小学校体育館の壁画、少し離れた大井海水浴場の防波堤には山口啓介の〈歩く方舟〉があって、もともと人気あるアートサイトです。時間をかけて楽しめます。
作品巡遊(女木島)
波止場に着いたら木村崇人の〈カモメの駐車場〉、禿鷹墳上のピアノ帆船〈20世紀の回想〉を見て、ニコラ・ダロの〈ナビゲーションルーム〉に行って下さい。海に開かれた空間が気持ち良い。上部には天体の動きを模した木の棒を組み合わせた海図がゆっくり動いていて、そこに接続するカラフルなベンチが回りながら上下しています。そこにギリシャ神話に出てくる二体のかわいいロボットがウィンクしてくれます。さらに昔の紙オルゴールが12曲、素晴らしい音を奏でてくれているのです。夢のようなのどかな世界、混迷する現代社会の中に、知とユーモアをもった場所を提供する、まさにリベラル・アートを体現するアーティストのエースだと言えるでしょう。
〈ナビゲーションルーム〉ニコラ・ダロ
少し南に戻って、寿荘には〈女木島名店街〉の作品と特選SHOPがあります。前回からのレアンドロ・エルリッヒの〈ランドリー〉はアルゼンチンで撮った映像が回っている3台の洗濯機と実際に使える2組の洗濯機と乾燥機、原倫太郎+原游の〈ピンポンシー〉(大人気!)、フランスのヴェロニク・ジュマールの特殊インキによる手型が出る〈カフェ・ドゥ・ラ・プラージュ〉、宮永愛子の〈ヘアサロン壽〉、中里繪魯洲の〈ティンカー・ベルズ ファクトリー〉は健在で、中里さんの作品は人気上々で売れています。新作で五所純子の〈リサイクルショップ複製遺跡〉は、リサイクルできるキーや玩具、小物が埋められてあって、美しく大健闘。
〈ランドリー〉レアンドロ・エルリッヒ
岩沢兄弟の〈鬼ヶ島ピカピカセンター〉は、島内からの使わなくなったものを、みんな照明器具にしてしまう優れもの。柳建太郎は耐熱ガラスの熟練アーティストですが、ここではルアーを中心に展開し、全国区の人気です。ここから依田洋一朗の〈女木島名画座〉や大竹伸朗の〈女根/めこん〉、レアンドロ・エルリッヒの〈不在の存在〉という名作に寄りながらオーテに囲まれた迷路のような家並を辿っていくと、あきびんごの〈瀬戸内カーニバル〉(本屋)、大川友希の〈結ぶ家〉(アパレルショップ)、三田村光土里の〈メギファブ〉(テキスタイル、ボタン屋)など作品と珠玉のような本や飾りものに出会えます。小谷元彦の〈こんぼうや〉は加工する機械などが運びこまれていて、秋会期にオープンです。
時間を見つけて杉浦康益の〈段々の風〉にぜひ行って下さい。もともとの段丘の畑のあとに400個の陶のブロックを組み立てた素晴らしい作品です。海が見える場所で往時の島民の気持ちが分かってくるというものです。
女木島は名作が揃っているうえに、ゆっくり回ると鬼の洞窟をはじめ多くの発見があります。
〈段々の風〉杉浦康益
2022年8月6日
瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター 北川フラム