Directors Blog #12
作品巡遊(小豆島)
夏会期2日目、小豆島ツアーのガイドをしました。小豆島は1日で回るのはかなりきつい。土庄港のチェ・ジョンファ(崔正化)の〈太陽の贈り物〉、キム・キョンミンの〈再び…〉、コシノジュンコの〈対極の美-無限に続く円-〉を見て、迷路の街には目の楽しい〈迷路のまち~変幻自在の路地空間~〉を中心にカンボジアのソピアップ・ピッチのアルミ製品を叩き延ばして百日紅(さるすべり)の木にしてしまった〈La Danse〉があるが、空地が目立つ海賊撃退用迷路の街のなかで奇妙な存在感があります。ここには癒しとしての植物ではない、カンボジアの何処かにある百日紅と実態は虚ろになりつつある日本の何処にでもある都市の空間をつないでしまう、作りものというにはあまりにも強く生々しい造型があって、胸を打つのです。すぐ近くにはリトアニア出身で現在はポーランドのワルシャワに住む絵本作家スタシス・エイドリゲヴィチウスの、木と鉄の二つの顔彫刻〈いっしょに/ともだち〉があり、これにも国境を越えてつながる感情の共感があるのでした。近くには軒や路地、家の入口、庭など14ヵ所に〈立入禁止〉の表札・記号があって、これは建築家 土井健史のプロジェクトなのですが、街の発見としては楽しいものなので、時間をみつけて辿って見て下さい。
〈La Danse〉ソピアップ・ピッチ
ここからは岬めぐりをするか小豆島の里山突破をするかの踏分道になります。海側を行けば三宅之功の〈はじまりの刻〉という白い陶による巨大な卵が屋形崎の旧ゴルフ場の5番ホールの真上に立っていて、想像以上に良かったです。割った陶を円形に組む技術がこの良さを裏打ちしているのですが、その割れ目には植物の芽生えもあるし、よく見ればウクライナ領土のような形もある。時代を映しているのでしょう。ここからは大坂城残石記念公園も近く、そこには秩父前衛派の〈ダイナマイト・トラヴァース変奏曲〉があります。県道252号線で盆地を通れば小豆島名物の江戸時代からの猪鹿垣を扱った齋藤正人の作品〈猪鹿垣の島〉があり、中山まで行けばワン・ウェンチー(王文志)の新作〈ゼロ〉の竹を織り込んだ精妙なドームに行きつきます。今回は天井だけでなく、中山の農村歌舞伎舞台が見える窓も作ってあり、中で寝ころべば疲れも暑さも飛んでけー!の気持ちよさです。
〈ゼロ〉ワン・ウェンチー(王文志)
三都半島には前々回からの広島市立大学芸術学部のタイプの異なった作品群があって楽しめますが、今回の田中圭介の架空の彫刻家のアトリエ〈Utopia dungeon ~Command from Utopia~〉と尾身大輔の〈ヒトクサヤドカリ〉は密度があります。草壁港には中国のシャン・ヤン(向阳)の巨大な台船の上に建つ高さ9メートル、長さ25メートルの大きな作品〈辿り着く向こう岸〉が見ものです。中国で捨てられる運命にある伝統的な家具を集めていて、それらの技術の細部に入りそれを今に活かすというものです。彼はこの台船で世界を回ろうと夢見ています。
〈辿り着く向こう岸〉シャン・ヤン(向阳)
新建築社+SUNAKIによる坂手港近くの〈小豆島ハウスプロジェクト〉も新しい試みです。古い家、離れ、蔵、それぞれの原型のよさを活かし、古い材料を使いながら、現代的に使い勝手を工夫するというもので、今年はこれに直島の三分一博志の古い工法による〈The Naoshima Plan「住」〉、男木島の坂 茂の紙管建築による〈男木島パビリオン〉が揃い、建築の瀬戸芸は元気です。坂手には島田陽やドットアーキテクツの家と清水久和の〈オリーブのリーゼント〉、ヤノベケンジの〈スター・アンガー〉がありますよ。醤の郷にもジョルズ・ルース他の作品があります。
〈小豆島ハウスプロジェクト〉小豆島ハウスプロジェクト(新建築社+SUNAKI)
福田は福武ハウスの展示が凄い。森村泰昌、Chim↑Pom、森万里子、インディゲリラをはじめとする作家たちの傑作が並ぶ他、福武ハウスの歴史を紹介する部屋があるし、町内には台湾歴史資源経理学会のサマー・ファン&ツァイ・ジアインの福岡郵便局プロジェクト、インドネシアのアナン・サプトトの日本とインドネシアの食に関するオブジェと考察の展示がある家、タイのコラクリット・アルナーノンチャイ&アレックス・グヴォジックの強烈な映像の家があります(ここのソファーは気持ちがよい)。食も長い研鑽の結果でしょう。弁当は安くてうまかった。おすすめです。(福武ハウス=〈「アジアギャラリー『時代の風景・時代の肖像+++』」〉、〈「葺田の森テラス」〉、〈「地域紹介展示」福田からのお手紙〉、〈「アジア・アート・プラットフォーム協同展2022『Communal Spirits/共に在る力』」)
潮風弁当
ここから寒霞渓を目指しますが、途中に韓国のイ・スーキュン(李秀京)の磐座(いわくら)らしき黄金の落石が二つあり(〈そこにいた〉)、古くから石を崇めてきた気持ちがわかります。嶺には圧巻の青木野枝の展望作品<空の玉/寒霞渓>があります。青木野枝が長年挑んできた柔らかな鉄の精粋と美しさが、眺望の良さとあいまって素晴らしいのです。小豆島は充実しています。
〈空の玉/寒霞渓〉青木野枝
2022年8月10日
瀬戸内国際芸術祭総合ディレクター 北川フラム
まだ間に合う!ディレクターツアー
▶総合ディレクター北川フラムとめぐる第3弾 豊島・大島ツアー~瀬戸内国際芸術祭はどうやって始まったのか、芸術祭の10年間の取り組みを体感する~
日程 8/24(水)|料金 24,200円(税込)
行程 高松港 大巻伸嗣「Liminal Air -core-」作品下(9:50出発)=高松港~<チャーター船>~~豊島(バス・徒歩でガイド散策/昼食含む約3時間)~<チャーター船>~大島(徒歩でガイド散策約1.5時間)~<チャーター船>~高松港(16:50頃)・・北川フラム氏による特別レクチャー(約1時間)・・解散(18:00頃)
お申し込みはこちら https://setouchi-artfest.kotobus.com/tour/ktg023.html
▶直島文化村 笠原良二氏とめぐる特別編 直島ツアー~瀬戸内国際芸術祭はどうやって始まったのか、ベネッセアートサイト直島から紐解く~
日程 8/25(木)|料金 19,800円(税込)
行程 高松港 大巻伸嗣「Liminal Air -core-」作品下(7:50集合)=高松港(8:12発)~<定期船 約1時間>~直島(バス・徒歩でガイド散策/昼食含む 約5時間)~<定期船 約1時間>~高松港(15:20着・解散) お申し込みはこちらhttps://setouchi-artfest.kotobus.com/tour/ktg025.html
Photo : Keizo Kioku(お弁当の写真以外)