アーカイブ

2018.07.27 【瀬戸内歴史探検隊】小豆島の祈りの炎、夏を告げる虫送り

せとうちのしおり♯8




瀬戸内海で淡路島に次いで大きい島、小豆島。
海のイメージのある小豆島ですが、日本三大渓谷美のひとつ寒霞渓などに代表される山々は、奇岩や断崖が続く景勝地。
瀬戸内海最高峰の星ケ城を有し、遠くは明石海峡大橋まで見渡せることも。
島の北側は採石場が多く、大坂城再築城のための石を多数切り出したことでも有名です。


今回訪れた肥土山、中山エリアは周囲をぐるりと山に囲まれた地区。
水源が豊富で、見渡すかぎり美しく素朴な田園風景が広がっています。
海が見えないため、一瞬ここが小豆島であることを忘れるほどです。


このエリアにはそれぞれに茅葺きの農村歌舞伎舞台が現存しています。
役者から裏方まで、すべて地元の人々の手でおこなわれる農村歌舞伎。


近世以来上方との往来が盛んだった小豆島では、明治の最盛期には100か所を超える場所で上演がおこなわれていたそうです。
しかし徐々に少なくなり、今ではこのふたつの地区だけとなりました。

農村歌舞伎のお話は、今後「せとうちのしおり」で詳しくご紹介する予定ですので、どうぞお楽しみに。


さて、独自の文化が今なお受け継がれているこのふたつの地区に「虫送り」という、夏を告げる風物詩とも言える行事があります。
毎年、半夏生(はんげしょう)の頃の夕暮れに子どもたちが松明を持ち、稲に虫がつかないよう祈願しながら田んぼの畦道を歩くのです。


虫が明かりに集まる習性から編み出され、16世紀の始め頃から各地の農村でおこなわれた虫送りは、江戸時代には全国的に広まっていったと考えられています。

かつては小豆島でも中山、肥土山、黒岩、上庄と各集落を流れる伝法川の下流に向かって火をリレーさせ、最後は海にまで虫を送っていたそうです。




肥土山地区の虫送り行事を執りおこなう多聞寺の藤本住職にお話をうかがいました。


「江戸時代から350年以上途切れず続いている伝統行事です。松明に点ける火は、太陽の光を虫眼鏡で集めてつくります。その炎をここから肥土山の農村歌舞伎舞台にある八幡宮まで運び、各自が持ってきた火手(ほて)に点火してスタートするんです」


火手とは松明のこと。
ボロ布や廃材、肥松などを竹の先端に詰めて、各家庭で手づくりし、子どもに持たせます。


今は大人の参加者も増えましたが、本来火手を持って歩くのは子どもたちの仕事。
幼少期の記憶を聞いてみると、ご住職は笑いながら話してくれました。


「楽しかったですね。昔は夜に遊べることなんてなかなかないじゃないですか。父親がロウソクの残りなどを詰めて手づくりしてくれた火手を持って、友達と誰が一番最後まで火が消えないか競争してましたね」




農村歌舞伎もそうですが、このエリアは子どもが主体となる伝統行事が多いことでも知られます。
現代社会では、違う年代の地域の人々とかかわることは少なくなっていますが、肥土山では子どもから大人まで一緒になって参加することで、地域に連帯感がうまれているそうです。


「まわりを大事にして人を大事にする。自分たちが子どもの時楽しかったから、自然と子どもたちのためにやろうという気持ちになるんじゃないですかね。誇りをもってやってますから、続けられるかぎりは続けていきたいです」
最後にご住職が話してくれました。


そして夕暮れ。
本堂から運び出された火が、肥土山の農村歌舞伎舞台まで運ばれ、次々と子どもたちが持つ火手に点火されてゆきます。




参加した子どもたちは約100名。
植えられたばかりの水田に、炎が幻想的に浮かび上がります。
その火手は、もちろん今でも各家庭での手づくり。




350年以上も伝統を守り続ける肥土山の虫送り。
いつまでも残って欲しい、日本の原風景を見たような気がしました。




もうひとつの地区、中山の虫送りは、7月の第一土曜日におこなわれます。
少子化などから一時期は行事が途絶えていましたが、映画の重要なシーンとして虫送りが再現されたことをきっかけに、2011年から再開されました。


中山地区は美しい棚田が有名です。
約800枚の棚田を見下ろすことのできる千枚田の最上部にある湯舟山(ゆぶねさん)で祈祷した後、護摩木の火を火手に移し、荒神社(こうじんじゃ)と湯舟山の2か所からスタートします。

急な斜面を「とーもせ、ともせ」のかけ声とともに、火手を持った2つの列がゆっくり交わりくだっていきます。





「とーもーせ、ともせ」のかけ声が宵闇の迫る棚田に響きます。
農村歌舞伎舞台がある春日神社が終着です。




中近世の人々にとって、その年のお米や農作物のできは、次の年の自分たちの生活や命に直結していました。
そんなお米の豊作を願ってはじまり、それぞれの地区に受け継がれてきたふたつの虫送り。

稲作というものが、いかに大事だったかがわかる美しい祈りの行事です。




虫送りが終わると、いよいよ小豆島に暑い夏がやってきます。
来年の虫送りが終わると、瀬戸内国際芸術祭2019夏会期(2019年7月19日〜8月25日)の幕開けです。


芸術祭の楽しみは、アートを通してその「地域」を知ること。
瀬戸内国際芸術祭の作品はすべて、その地域、その場所にあることに意味をもっています。


そこに根付く文化や伝統、そして暮らしに目を向ければ、作品の見え方まで違ってくるかもしれません。




Photo:Yasushi Ichikawa
中山地区にに設置されていた作品「オリーブの夢」(ワン・ウェンチー)。
すでに撤去しているため鑑賞することはできません。

前のページ
一覧表示
次のページ