これまでの歩み

2019.01.04 石垣の集落と、龍王山歩き

せとうちのしおり #29



多度津港からフェリーに乗って、高見島へ約25分。港に着くと、登山グループ数人とすれ違いました。
高見島には標高297メートルの龍王山があります。対岸の多度津町から見ると、このあたりでは一番高く見える島なので高見島と名づけられたそうです。

小学校卒業まで高見島に暮らしていた西山市朗(にしやまいちろう)さんと、高見島生まれで毎週土曜日に高見島に通っている山野雅道(やまのまさみち)さんに案内してもらいました。

まず向かったのは、港から右手に続く浦地区。昔はメイン通りだったという細い坂道に入ります。大半が山だという高見島では、傾斜を利用して家や道がつくられていて、あちこちに見かける石垣が印象的。





お城のような石垣に建つのは、アメリカで成功したという中塚家の邸宅。瀬戸内国際芸術祭2013・2016ではレストラン「海のテラス」の会場になった建物です。昭和7年につくられたという比較的新しい石垣は隙間がなく、塀の上からは立派な鯉模様の瓦がのぞいていました。





島で唯一の四つ角を過ぎると、
「ここから写真撮ってみて。インスタ映えするスポットですよ」
と山野さん。

石垣に建つ民家が美しく並んでいます。ただ、高見島の現在の人口は30人程度。ほとんどが空き家になっていて、近づいてみるとツタが這っている家がほとんどでした。瀬戸内国際芸術祭2013・2016の会場となった高見島では、空き家を利用した作品が多く、射し込む光が美しい「うつりかわりの家」(中島伽耶子)もこの集落にあります。


「これは300年前の石垣ですよ」
と教えてくれた西山さんの実家は、瀬戸内国際芸術祭の期間中、休憩所として開放していたそうです。月に一度は風通しに来ているためか、中に入らせてもらうと土間や座敷が清潔に保たれていました。





坂道を登ると、大聖寺に着きました。山門には力士像が鎮座。愛嬌のあるかわいらしい力士です。海を見ると、瀬戸大橋から丸亀城、金刀比羅宮のある象頭山まで気持ちの良い見晴し! 天気がよければ、岡山県まで見えることもあるそうです。





大聖寺からさらに登ると、山野さんの家があります。中に入ると、除虫菊の大きな写真が壁に飾られていました。実はこの家も、瀬戸内国際芸術祭2013・2016で「除虫菊の家」(内田晴之+小川文子+田辺 桂)の作品が展開されていました。

「趣味で除虫菊を育てるために、8年ほど前から毎週高見島に通っています。島に下見に来た作家さんが私の畑を見て、この家に除虫菊の作品をつくることになったんですよ」
山野さんは自分の家を貸しているだけではなく、「うつりかわりの家」の建物の解体や補修作業を手伝うなど、さまざまな作品に関わったそうです。

さて、てくてく高見島散歩は、これからが本番。
西山さんと山野さんは、高見島応援団として結成された「さざえ隊」のメンバー。50人ほどの仲間とともに、瀬戸内国際芸術祭の期間中はボランティアでガイドをしたり、休憩所で接待したり。それ以外の期間も、定期的に集まって花壇や登山道の整備をしているそうです。





登山道整備メンバーのひとりである山野さんの案内で、龍王山へ。龍王山の登山道といえば急勾配の直線ルートが一般的なのですが、山野さんたちが整備したのは、昔、畑へ通う道として使われていたルート。地図では水色で示されている道です。

「除虫菊が栽培されなくなった50年ほど前から使われていなかった道を、メンバーの昔の記憶を頼りに探して、木を切ったり、草を刈ったりして歩けるように整備しました」

昔の道は山頂までぐるりと遠回り。その分なだらかで、さまざまな方角の景色が楽しめます。





3合目休憩所からは牛島、本島、広島が、7合目休憩所からは手島と小手島が親子亀のように並んで見えます。もちろん休憩所のベンチも、さざえ隊によって設置されたもの。ちょっと疲れたなと思うたびに、休憩所があって助かります。





「ここからの景色は特におすすめです」
と山野さんが言うのは粟島展望所。粟島や紫雲出山が見え、奥には伊吹島も顔をのぞかせています。船の汽笛以外の音はほとんど聞こえず、目の前の景色を眺めているだけで心地いい、ゆったりした時間が流れています。





登り始めてから1時間ほどで山頂へ。山頂展望所からは佐柳島が見えました。
「はじめここに来たときは、木が生い茂っていて何も見えませんでした。木を切り倒して、草を刈って、やっとこれくらいの見晴しになったんです。ここが私の家に飾られている除虫菊の畑の写真と、同じ場所なんですよ」

山野さんの家で見た古い写真のように、かつて山頂は一面が除虫菊の畑でした。50年前まで畑だったとは思えないほど、現在の山頂一面は木で覆われています。

雨乞いが行われていたという社を見て、帰りは急勾配ルートから下山。さざえ隊が整備した登山道は、島に置かれている地図を見て歩くことができます。龍王山が「しま山100選」に選ばれたことから興味をもつ登山客もいて、県外から訪れる人も増えているそうです。ちなみに、高見島では4年ほど前からイノシシが棲みついているので、ひとりではなく集団での登山がおすすめです。





山に覆われる高見島では、午後3時になると日が陰ってきます。さざえ隊が手入れしている数か所の花壇を見つつ、港へ向かいました。広い花壇には季節ごとの花々が植えられていて、さざえ隊の手入れが行き届いています。さざえ隊のみなさんが、島を大切に見守っていることが感じられました。

高見島は瀬戸内国際芸術祭2019の秋会期に参加します。心を和ませてくれる風景にたくさん出会える島を、作品鑑賞とともに散歩してみてはいかがでしょうか。

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