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2018.10.05 【てくてく島さんぽ】船の待ち時間を利用して、宇野のアートと歴史を歩く


せとうちのしおり#17



香川、岡山の12の島と2つの港で開催される瀬戸内国際芸術祭。
そのひとつである岡山県の宇野港は、JR宇野駅から徒歩約5分。
直島や豊島、小豆島など、芸術祭の舞台となる島々に向かうフェリーが発着する港としても知られています。


「宇野駅や宇野港周辺には、芸術祭の作品が徒歩圏内に点在しています。
30分から1時間あれば、アートを探して歩きながら、宇野の風景も楽しむことができます。
フェリーの待ち時間を利用して港周辺を散歩してみませんか」。


そう教えてくれたのは、「たまの観光ボランティアガイドつつじの会」の大倉和法(おおくら かずのり)さん。
宇野周辺をはじめ、玉野市の魅力を伝えるため、31人のガイドさんたちがそれぞれ歴史やアートなど得意な分野をいかし、ボランティアガイドとして活躍されています。
大倉さんと歩く宇野散歩は、JR宇野駅からスタートしました。


「宇野駅の駅舎を出たら、まずは後ろを振り返ってみてください」。
大倉さんの言葉に振り返ると、そこには黒いラインで彩られた駅舎。

「JR宇野みなと線アートプロジェクト。イタリア人のエステル・ストッカーさんの作品です」。
そう言えば、岡山駅から宇野駅までの間の3つの駅(常山駅、八浜駅、備前田井駅)のホームが同じように白と黒で彩られているのを車窓から見ました。
船に乗る前にすでにアートな旅ははじまっていたんですね。
4つの駅ともエステル・ストッカーの作品です。




大倉さんが次に紹介してくださったのは、宇野駅のすぐ隣にあるカラフルな作品「終点の先へ」(小沢敦志)。
よく見ると自転車のようです。


「宇野港などに放置されていた自転車を再生してアートにしたそうです。
アートになった自転車には、それぞれ讃岐丸や児島丸、伊予丸など、かつて宇野駅と四国の高松駅を結んでいた宇高連絡船の名前がつけられています。
一台一台の色は当時の船体の色なんですよ」。


人々の暮らしの足として活躍した宇高連絡船は、明治43(1910)年に運航を開始。瀬戸大橋が開通した昭和63(1988)年に廃止されました。

実はアートな自転車はレンタサイクルとしても活躍。瀬戸内国際芸術祭2016会期中には、アートな自転車に乗って宇野の町をめぐる旅人も多くいました。




「つつじの会の事務所は、宇野駅前駐輪場の1階にあります。のれんが掛かっていたら、メンバーのだれかがいますので、ガイドはもちろん、なんでも気軽にたずねてください」と大倉さん。


あれ? 駐輪場の壁に海や船など、いろいろな風景写真が展示されています。
周辺をよく見ると、ビルの壁にも宇高連絡船の写真や当時のにぎわいを彷彿とさせる古い写真、船と海のある風景が何枚も展示されています。


「展示されているのは、宇野港『連絡船の町』プロジェクトとして開催された『撮り船』フォトコンテストの優秀作品です。いろいろな場所にありますから、探してみてください」。




駅から港に歩いていると、緑の木々の間に鉄を用いた作品「舟底の記憶」(小沢敦志)が見えてきました。


「本物のイカリを使っているんですよ。先ほど見た『終点の先へ』をつくった小沢敦志さんの作品。昭和18(1943)年製造の軍艦のイカリに、市内に暮らす人から集めた鉄くずを熱したり、叩いたりして、引っ付けているんです。鉄くずは海のもくずを表現しているそうです。完成後も作家さんによるワークショップが何度も行われています。その度、鉄くずが積み重ねられて、作品がどんどん成長しているように見えるのも面白いですね」。


ここまで来ると、海と島々、そして島々に向かうフェリーもよく見えます。

駅から少し歩いただけで、アートや海、島々など、瀬戸内ならではの風景がこんなに見られるなんて、少し驚きです。

それを聞いた大倉さんが笑いながら言いました。
「まだまだありますよ」。


ノルウェー船のプロペラを使ったもうひとつの「舟底の記憶」は、数万トン級の豪華客船が寄港する大型客船専用埠頭「クルーズ・ポート・ウノ」の近くにもあります。




直島に向かうフェリーを眺めながら次に向かったのは、大倉さんが「私の一番おすすめ」という作品。
大型客船専用埠頭に向かって歩いていると、待っていたのは2匹のカラフルな魚たちでした。





「大きい方が『宇野のチヌ』(淀川テクニック)、小さい方が『宇野コチヌ』(淀川テクニック)。
大きい方は2010年の作品で、2013年、16年とお色直しをされました。
市内の人たちに呼びかけて空き缶やペットボトルなど、不要な物を集めてつくっているので、『あっ、これ私が持ってきたおもちゃ』とか言いながら見ている人もいますよ」。





小さい方は2016 年の作品。魚の中は滑り台になっていて、まるで秘密基地のよう。子どもたちに人気だそうです。


「宇野港周辺はアートを散策しながら、宇野の歴史も感じられますよ。宇野に港をつくろうと奔走した第8代岡山県知事、桧垣直右(ひがきなおすけ)さんの銅像や、経済産業省の「近代化産業遺産」に認定されている宇高連絡船の遺構などがあります。





宇野駅から宇野港周辺を大倉さんと歩いた時間は、瀬戸内国際芸術祭の作品はもちろん、海と島々、フェリーなど、瀬戸内らしい景色をながめながら、宇野港や宇高連絡船の歴史に触れた1時間でした。


「最後にもう一度宇野駅の駅舎を、今度は少し離れた場所から眺めてみてください。近くから見ると離れていた線が、つながって見えませんか。不思議ですね」と大倉さん。


たまの観光ボランティアガイド「つつじの会」のガイドさんたちは、島々に向かうフェリーの待ち時間に合わせて、また一人ひとりの希望に沿ってさまざまなコースを提案、案内してくれます。一緒に歩くと、瀬戸内の島々をめぐる旅がさらに楽しくなりそうです。


たまの観光ボランティアガイドつつじの会(宇野駅駐輪場内)
土・日・祝日/10:00〜16:00
連絡先:公益社団法人玉野市観光協会 0863-21-3486



瀬戸内海の島々や四国・高松へと渡る海の玄関口宇野港で、島々を訪れる人たちを見つめてきた人がいます。
2014年に「UNOICHI〜海が見える港のマルシェ〜」を立ち上げた小倉理史(おぐら まさふみ)さんです。


「宇野港から見える直島や瀬戸内海、島々へと向かうフェリー。見ているだけでも心が癒されるその風景を、伝えたい、知って欲しいという思いからUNOICHIははじまりました。




現在では、マルシェを開催するだけではなく、地元の高校生や関東のUNOICHIチームの大学生が、それぞれの思いやアイデアで、日本をはじめ海外の人たちに、瀬戸内海や宇野の魅力を発信してくれています。


そのベースにあるのは、瀬戸内海はいつ訪れても楽しい。わくわくする何かが待っている。自分たちの住んでいる瀬戸内をそんな場所にしたいという思いです。

宇野港は直島、豊島に行く海外からの旅人が多いですね。フェリー乗り場や船の時間など、ほんの少しご案内するだけでもとても喜んでもらえる。いい思い出を持って帰国してくれたら、自国のご家族や友人に、宇野や島々の話をしてくれると思うんです。話を聞いた人たちが今度は瀬戸内に来てくれたら、うれしいですね。瀬戸内海はおだやかですべてを包みこんでくれる母親のような存在。見ているだけでも癒される。その魅力を届けることに加えて、その海を守っていくことも私たちの役目だと思っています」。


つつじの会の大倉さんと歩いたり、UNOICHIの小倉さんにお話を聞いたりすると、どれだけ宇野港が地元の人々に愛されているか、わかります。


潮風を感じながら、宇野港のアート&歴史に触れる。
船の時間を調べてから散策すると安心です。

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