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2018.10.19 旅する蝶が舞い降りる、伊吹島

せとうちのしおり♯19




渡り鳥のように、長距離を旅する蝶がいます。
名はアサギマダラ。アゲハ蝶より少し小さく、体長は10センチほどです。
名の示すように、羽は黒褐色と、浅葱(あさぎ)色という、ごく薄い藍色のまだら模様。
春は北上、秋になると南下する渡りを繰り返し、移動距離は2000キロにもなるといわれます。


このアサギマダラが、長距離を旅するための休憩地として、瀬戸内海の海岸や島々に立ち寄ります。





観音寺港から約10キロに位置する伊吹島も、そんな休憩地のひとつとしてアサギマダラが立ち寄るようになりました。
はじまりは2015年、一本の電話がきっかけだったそうです。


「『伊吹島に秋の七草のひとつフジバカマを植えたらアサギマダラが来るかもしれない、伊吹島で空いている畑はないか』という問い合わせの電話が、観音寺市のアサギマダラ飛翔会からかかってきたんです」


伊吹島でアサギマダラの活動を積極的に行なっているのは、以前「せとうちのしおり#16」で伊吹島の歴史について教えてくれた、三好兼光(みよしかねみつ)さん。





写真の植物は、絶滅危惧種であるスナビキソウ。
アサギマダラは、北上するときはスナビキソウ、南下するときはフジバカマの蜜を好んで吸うことがわかっています。

観音寺市の有明浜にはスナビキソウが自生していて、2013年5月にアサギマダラが立ち寄ることが確認されました。
そこで、対岸の伊吹島にフジバカマを植えれば秋の南下の際に立ち寄るのではないかということでした。





観音寺市の飛翔会から電話を受け、飛翔会のメンバーと伊吹島の人たちが協力することに。
2015年7月末には、伊吹島の真浦港近くにあった休耕地にフジバカマ380本を植えました。
その結果、3か月後の10月には早速アサギマダラ5頭の飛来を伊吹島で初めて確認できたそうです。





伊吹島にアサギマダラを呼ぶための活動は、伊吹小中学校の協力によってさらに広がりました。


2016年には「伊吹島にアサギマダラを呼ぼうプロジェクト」がスタート。

小中学校の児童、生徒たちが主体となって、飛翔会の指導のもと校庭にフジバカマ50本を植えました。
夏休みの水やりも積極的に行なっているといいます。

子どもたちの手づくり新聞によると、2016年には約140頭、2017年には79頭が確認されたそうです。


さらには、専門家の指導のもと移動調査のためのマーキングを実施し、2017年には40頭のマーキングに成功!
アサギマダラの飛来地として活動している県内外の小学校とも交流が生まれ、ビデオや手紙のやりとりが行われました。


旅する蝶は、人の縁も運びこんでくれたようです。





小中学校のプロジェクトが始まった2016年には、伊吹島民俗資料館の中庭にもフジバカマが植えられました。
伊吹島民俗資料館は、瀬戸内国際芸術祭2016の作品が展開された場所でもあります。
伊吹島は秋会期に参加したので、アサギマダラの飛来時期と重なりました。


「芸術祭の作品を見に来た人が、アサギマダラを見てすごく喜んでいました。作品はもちろん、それと同じくらい蝶の姿に感動されていたようです」
と三好さん。


「私は一番はじめに植えた真浦で、30頭ほど見たことがあります。30頭っていうと、大群ですよ。あちらこちらで乱舞していて感動しました。アサギマダラは人懐っこくてかわいいんですよね。白いタオルを振ると仲間が飛んでいるように見えるらしく、人に近寄ってくるし、死んだふりもするんですよ」





10月、アサギマダラが飛来する時期になると、島の人たちも楽しみにフジバカマのところに見に来るそうです。
伊吹島では、はじめに植栽された真浦、それから伊吹島民俗資料館、小中学校の校庭に加え、北浦港にも少しフジバカマが植えられています。
難しい手入れは必要ないフジバカマですが、夏の水やりだけは欠かせません。三好さんは夏の間、毎日夕方になると時間をかけて水やりしているそうです。


「フジバカマを植える場所の選定の基準は、まず水道があるところ。そして、花の香りが上昇気流に乗って蝶を誘えるような斜面が近い地形のところ。それから、雨が降ったときに蝶が逃げ込める森があるところです」





ちなみに、同じアサギマダラが何度も往復するのかと思ったら、それぞれの個体は片道しか通らないといいます。
春、5月に対岸の有明浜でスナビキソウを吸って北上した蝶が、東北や長野などの高原地帯で夏を過ごして卵を産んだ後に命が尽き、卵が孵(かえ)って南下。
10月には伊吹島など瀬戸内海の島々に立ち寄り、南は九州、沖縄まで飛来します。


遠くは台湾でも確認されているとか。
南下した蝶も卵を産んだ後に生涯を閉じるという、片道だけの儚い命です。
ただ、詳しい生態についてはまだ解明されていないそうです。


瀬戸内国際芸術祭2019でも、2016年と同じく、伊吹島は秋会期に参加します。

その期間には、西讃の本島、高見島、粟島、伊吹島の4島にアサギマダラが飛来してほしいと、4島の地元の方や関係者が中心となり「アサギマダラ飛来プロジェクト」が立ち上がりました。


今年の5月28日に伊吹島で育ったフジバカマを50株ずつ3島に株分けし、飛翔会のメンバーと島の人たちの手によって植えられたそうです。

飛翔会のメンバーも、島の人たちも、アサギマダラの活動はすべてボランティアで行なっています。
素敵な蝶を多くの人に見てほしいという気持ちに支えられて、ふらりと島を訪れる人たちも、アサギマダラの姿を見るという貴重な体験ができるのです。


アサギマダラは自然の生物なので、いつ何頭が飛来してくるか、詳しいことはわかりません。


一期一会の出会い。
だからこそ、より人の心を感動させるのかもしれません。


観音寺市の有明浜から伊吹島へ。伊吹島から瀬戸内の島々へと、アサギマダラがつないだ人の縁が広がってきました。
今後もその縁は広がり、瀬戸内の島々と、アサギマダラを見に島を訪れる多くの人たちをつないでくれることでしょう。


瀬戸内国際芸術祭2019の秋会期には、その縁に導かれるように舞い降りるアサギマダラを西讃の島のあちこちで見かけるかもしれません。

写真協力:有明浜の海浜植物とアサギマダラ飛翔会

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