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2018.11.16 鉢の中の自然美をつくり続ける職人技


せとうちのしおり #23

およそ200年前に、自生する松を鉢植え仕立てにして「盆栽」として販売したのが始まりと言われ、今では松盆栽の名産地となった香川県。
瀬戸内国際芸術祭2016では、その魅力やイメージづくりに挑む盆栽家やクリエイターたちが、女木島の海岸沿いの松林に囲まれた空家を会場に、約50点の作品を展示しました。
(「feel feel BONSAI」平尾成志(ひらおまさし)×瀬ト内工芸ズ。× 香川県盆栽生産振興協議会)



Photo: Yasushi Ichikawa


盆栽のふるさとである香川県高松市の西部にある鬼無・国分寺地区は、全国約8割のシェアを占める松盆栽の一大産地。海外では、“BONSAI”と呼ばれ親しまれており、欧米やアジアに輸出されています。

ここ鬼無・国分寺地区は松の苗づくりから始まり年月をかけて盆栽を育てているのが特徴。この地域ならではの、畑に野菜ではなく大小さまざまな松がずらりと植えられた光景が印象的です。

現在、約60軒の盆栽園があります。
そのひとつ、国分寺町にある平松清寿園の平松清さんを訪ねました。





国分寺地区で松盆栽が始まったのは、明治20(1887)年ごろ。
当時は米麦づくりが一般的でしたが、副業として松、杉、ヒノキ等の苗木や紅葉、梅、桜等の苗木がつくられたようです。
また、周辺の山は花崗岩で水はけがよく雨の少ない瀬戸内の気候のため、小さいながら幹の太い松が育ち、盆栽に適したそうです。
そして、これらを鉢植え仕立てにして盆栽にしたそうです。

また、周辺の山では、まれに黒松の皮が翼のように割れる錦松が見られ、古さを感じさせる皮肌が多くの人を魅了し、大正から昭和にかけて一大ブームとなったそうです。
鬼無・国分寺両地区とも、盆栽に熱心に取り組む先駆者があらわれ、現在の盆栽の基礎となるいろいろな技術が開発されました。こうして盆栽産地として発展し、昭和49年頃には、国分寺だけでも農協の盆栽部会員が200人超にのぼったそうです。


平松さんは3代目。
昭和24(1949)年生まれの平松さんが幼い頃、近くの山一面に松の木が生えていて薪にしたそうです。

松は、長時間にわたり火を起こすことができるため重宝した上、薪を取ったあとの株は盆栽の素材としても適していたそう。
平松さんのお祖父さんがさまざまな生業を兼業しつつ盆栽園を始め、お父さんの代に盆栽業に落ち着いたそうです。
そのお父さんは高校を卒業する前に他界。
亡くなる前に言われた「兄と一緒に盆栽園を継いでほしい」という言葉のとおり、盆栽の道に進むことにしました。





盆栽には、苗木づくりが得意な職人と、樹形を整え仕立てていく加工が得意な職人がいて、平松さんは加工が主体だそうです。
加工とは、鉢に植えた盆栽を剪定したり針金で整形したりしながら目的に応じた樹形に仕立てること。
盆栽の手入れは、樹種によって違いはありますが、季節ごとに行う作業があります。
例えば春の芽吹き前は、植え替えや葉を抜いて数を揃える葉すかしの作業だそう。
6月には、伸びた芽を切り新しい新芽を出させるのだそうです。

訪れた10月は古葉取りの時期で、この日は樹齢100年になる黒松の手入れをしていました。

「この黒松は展示会に出品します。すべての葉が上に向かって伸びているのが理想の形なので、茶色になった古い葉や下を向いた葉を一つひとつピンセットを使って、ていねいに取り除いていきます」と平松さん。





作業場の中央には、山柿の盆栽が小さな赤い実をひとつつけていました。

「これは私が種から育てて盆栽に仕立てました。小さいうちに針金で幹を曲げて横に伸ばしました。最初は3個くらい実がなってもいいかなと思ったのですが幹が細いので1個だけにしました。樹形も実の数も、計算しつつ仕立てました」。

そんな話を聞いていると、鉢の中でひとつの作品を作る盆栽家は、自然美を造形する職人だと思えてきます。





作業場を出たところにある庭には、大小さまざまな盆栽がずらりと並んでいました。

「山柿などの実もの盆栽は比較的成長が早いので自分で種から育てることもありますが、先代から受け継いだ盆栽も多く樹齢200年と思われる松盆栽もあります」。

そう言って見せてくれたのが、横に向かって幹をうねらせ、一番上の松葉が鉢よりも低い位置にある黒松の盆栽。
根に近い幹は白く枯れたようになり、長い年月を生きてきたことがうかがえます。
株元は枯れたように見えても、黒い幹とあざやかな緑の松葉から生命力を感じます。
手間ひまをかけて正しく手入れをすれば、長く生きることがわかりました。


毎日、盆栽の手入れに忙しい平松さんに、盆栽の魅力について聞きました。

「盆栽は、様子を観察して適切に対応することが大切。例えば水やりには、春は1日に1回、夏は2回やればいいと言われていますが、土が湿っていれば水を欲しがっていないので水やりはしないほうがいい。こうした作業ひとつひとつが大切な経験です。盆栽が人生を教えてくれていると感じることがあります」。





瀬戸内国際芸術祭2019では、島の魅力を発見し、「あるものを活かし新しい価値を生み出す」サイトスペシフィックなアートプロジェクトの進展のほかに、個別プロジェクトを一層充実させます。

そのテーマのひとつが
「瀬戸の資源×アーティスト」です。

より深く地域を掘り下げるために、瀬戸内の特産物や農水産物に焦点をあて、アーティストが美術的な工夫を凝らすことで、来場者におもしろく体験してもらえるようなプロジェクトを展開していきます。

その一例が、「盆栽×平尾成志×瀬ト内工芸ズ。」
瀬戸内の資源とアーティストがどのようなコラボレーションを生み出すか、今から楽しみです。

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