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2022.10.10 【瀬戸内ふれあい紀行】来島者の声をお届けします [高見島編]

人口約20名と瀬戸内国際芸術祭2022の会場の中で人口が最も少ない高見島には、主人(あるじ)の居ない家が多くあります。作家や島に家を持つ元住民たちは、島に熱心に通い、空き家や路地を丁寧に整備しながら、景観を維持してきました。細くて急な坂道や階段が入り組む集落は、まるで迷路のよう。ふと顔を上げると海も見えます。

高見島には、多度津港からフェリーで25分。同港のフェリー待機列の先頭に並んでいたのは福島からの30代女性。「瀬戸芸は夢のような時間。この3年間、コロナ禍でどこにも行けなかったので、久しぶりの旅にワクワクします。」と目を輝かせていました。



ta05《まなうらの景色2022》 村田のぞみ

美術館の展示室をめぐるように作品が隣接する高見島。次に出会うのは、無数のステンレス線でできた空間です。

「まなうら」とは、まぶたの裏を意味します。昔、この家が見た景色や姿、さらにはこれから思い描く景色を想像してほしいとの作家の願いが込められています。

高松からの小学6年生の男の子は「きらきらする世界で、水族館みたい。とても楽しかった~。」と満足そう。

「月明かりに照らされているようで落ち着きました。」と話すのは大阪から訪れた50代男性。「ここまで材料を運ぶのも大変だったと思います。力作ですね。」と語っていました。

岡山から来た40代女性は「銀色の大きな綿菓子みたい。思わず抱きついてみたくなりました~。」と童心にかえっていました。



ta15《かたちづくられるもの》 鈴木健太郎

階段を少し上がると、一面藍色の部屋にたどり着きます。靴を脱いであがってみましょう。壁や天井をよく見ると、かつて高見島に住んでいた人の屋号が札に書かれています。

ブルーのざぶとんでくつろいでいたのは兵庫から来た30代女性。「藍色は日常の喧騒を忘れさせてくれます。入った瞬間、とても落ち着きました。」とすっきりした表情。「こんなに和風な家は普段、目にしません。実際に入るのは、とても貴重な体験です。」と満足そうです。

「ずっと浸っていたい空間です~。」と幸せそうな表情をしていたのは、丸亀から来た40代女性。描かれた模様からゲルニカ(ピカソ作)を連想したそう。「ゲルニカでは、戦争に対する怒りを表現していると思います。でもこの美しい藍色によって、怒りがだんだんと消えていき、海に静かに沈んでいく感じがします。この感覚がたまりません。」としみじみと語っていました。

高松からの70代男性は、「天井には島の記憶の断片が貼り付けられているかのようです。幻想的でした。」と話していました。


ta11《海のテラス》 野村正人

坂道を歩き回った後には、レストランで一休みしたいものです。穏やかな海を一望できる「海のテラス」では、香川産の食材を使ったイタリア料理を味わうことができます。

オフィシャルツアーの特別メニュー「オリーブ豚の白ワイン煮込み」を口にするのは、東京から訪れた50代女性。「あぶらみが落ちて、上品な味。本当においしいです。」とにっこり。「この絶品の料理にこのロケーション。贅沢な空間ですね。」と語っていました。

通常メニューはパスタの2種類。こちらも楽しみですね。



ta20《FLOW》 ケンデル・ギール(南アフリカ共和国/ベルギー)

海のテラスと同じ敷地には、高さ3m・横幅6mの大きな壁の作品があります。2つの窓からは瀬戸大橋も見えます。

写真撮影に夢中になっていたのは、千葉から来た20代男性。「木とガラスの組み合わせがとても斬新です。窓が合わせ鏡のようで、遠くに見える景色も映り、空間が広がっていくような不思議な感覚がします。」と喜んでいました。

「ここからの眺めは、海と空が連続した青になっていて、とても開放感がありますね。」と深呼吸するのは新潟からの40代女性。「輪郭がはっきりとしていて、海や空とのコントラストも綺麗ですね。」と笑顔でした。


ta17《通りぬけた家》 鐡羅佑

再び、細い坂道をのぼっていくと、今にも崩れそうな廃屋が・・。入り口から中へ足を踏み入れると、古い木造の家を抜けて鉄板に囲まれた空間に出ます。隙間から光が差し込む独特な空間です。

「部屋に入る前は不気味な感じがしたけど、入ってみると暗すぎず落ち着く素敵な空間。このギャップがたまりません。」と楽しそうに語るは、大阪からの20代女性。「やさしい光に包まれ、本当に落ち着きます。黄色や白色など多彩な光の色、普段あまり意識しない影を感じることも新鮮でした。虫の声とも調和していますね。」とほほ笑んでいました。

「ギィーー。ギィーー。」出口の扉を何度も開け閉めするのは、岡山から来た40代男性。「扉を開く時の音は、一般の家のドアでは味わえなくて、はまってしまいます。鉄板をさわった感じもいいです。」とにこやか。さらには「扉を開けると不思議な世界から出たような感覚がして面白いです。目の前には瀬戸内海の絶景。風も心地よいですね。」と満足げな表情でした。


ta13《~melting dream~/高見島パフェ 名もなき女性(ひと)達にささぐ...》 西山美なコ

さらに坂をのぼり、展示の中で一番高い所にある家にたどり着きます。2階に上がると…。

坂出からの小学生3年生の女の子は「いろんな色のピンクのバラがとてもかわいくて、お花畑みたいにいるみたい~。」と嬉しそう。

東京からお越しの30代女性は、「山登りが趣味ですが、ここまで登りがいがありました。」とすがすがしい表情。「古い家に西洋風の椅子や鏡、バラもうまく調和していて、文明開化あたりまでタイムスリップした感覚も楽しめます。」と語っていました。

宇多津からの20代女性は「器が1つ1つ違って、バラの美しさを引き立てます。時間の経過とともに、砂糖でできたバラがどう変化していくのか楽しみですね。」とほほ笑んでいました。


ta07《過日の同居2022》 藤野裕美子

作家の藤野さんは、地元の滋賀から3年かけて島に通い続け、人が住まなくなった集落の中で見つけた家財道具や日用品、放置された植物などから着想を得て作品をつくりました。

「昔住んでいた島の人の記憶や痕跡(こんせき)に思いを馳せてほしいですね。」藤野さんはこう語ります。

東京から訪れた40代女性は「絵画には様々なものが美しく綺麗に描かれていますが、実際に発見した時は埃(ほこり)が覆いかぶさったり汚れていたりしていたと思います。作家がどんな思いで表現したのか興味深いです。」と話していました。

まだまだ鑑賞の楽しみは残っています。多度津港に戻ったあとは、風情ある街で散策はいかがでしょう。

江戸時代には四国随一の港町として繁栄し、金毘羅(こんぴら)参りの玄関口だった多度津の町。今もなお、町家などが現存し、昔の面影を色濃く残しています。この歴史や文化に触れてもらおうと、古い建築物と調和したアート作品が展開されています。瀬戸内国際芸術祭2022からの新たな取り組みです。


ta21《海と路/一太郎やあい》 尾花賢一

海の要所として栄えた多度津は、かつて戦場に若者を送る舞台でもありました。多度津港から徒歩約10分。塩田家(屋号:煙草屋)の土蔵では、日露戦争時に多度津から出征した兵士と見送る母親を描いた、国定教科書にも載った物語「一太郎やあい」を再構築した作品が展開されています。

地元の70代男性は「この歴史ある建造物で、日本にも戦争があった歴史を記憶に残してもらいたいですね。」と話していました。


ta21《Nocturne(Tadotsu)》 山田悠

旧吉田酒造場の奥では、満月が音楽とともに多度津の歴史的建造物や古い町並みをなぞるストップモーション映像を楽しむことができます。

ゆったりと作品に浸っていたのは東京からの60代女性。「月が旅しているようでとても面白かったです。しっとりした音楽も心地よく、まるで月に『こっちにおいでよ~。』と案内するように聞こえてきます。酒蔵の雰囲気も素敵ですね。」としみじみ語っていました。


ta21《多度津町-海陸交通の発展・近代化を支えた商人たち》

近世から近代における多度津の発展について知ることができる「合田邸」も見どころです。明治時代、多度津町には「多度津七福神」と呼ばれる豪商が商いの中心を担ってきました。その一つに数えられた合田家。明治中期~昭和初期に建造された「合田邸」は数々の会議や宴会の舞台となり、歌人・北原白秋や第68・69代首相の大平正芳(香川県出身)をはじめ、多くの著名人が訪れました。

三豊からの60代男性は「今では四国の玄関口と言えば高松ですが、多度津にも黄金時代があったなんて知りませんでした。」と驚いた表情。「この家は華やかな時代の象徴で、とても価値の高いものですね。」と強調していました。


古い家々と向き合った多彩な作品を鑑賞でき、さらには町歩きも楽しめる多度津エリア。島や町に残る「先人の足跡」を体感できます。
(続く)


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