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2023.02.06 三豊市×Tara Océan 財団「海と地球の未来を考えるシンポジウム」を開催します!

2023年2月11日(土・祝)、「海と地球の未来を考えるシンポジウム」~世界の海の現状と自分たちにできること~が開催されます。(三豊市×Tara Océan 財団)


シンポジウムは二部構成。
Tara Océan財団エグゼクティブディレクター、ロマン・トゥルブレ氏による講演「21世紀の海と、タラ号の冒険と未来」と、パネルディスカッションが行われます。
パネルディスカッションは、ファシリテーターに東京藝術大学学長で、タラオセアンジャパンの理事を務める日比野克彦氏を迎え、トゥルブレ氏、山下昭史三豊市長、せとうち観光専門短期大学の青木義英学長が登壇されます。


世界の海を見てきたロマン・トゥルブレさんの貴重なお話が聞ける機会。ぜひ一緒に、海と地球の未来について考えてみませんか?


日  時:令和5年2月11日(土・祝) 13時30分~15時20分(13時00分開場)
開催場所:三豊市文化会館マリンウェーブ マーガレットホール
参  加:無料
申込方法:事前申込は、こちら(https://logoform.jp/form/iDPS/209251)
講演内容
 1.基調講演「21世紀の海と、タラ号の冒険と未来」
  《講演者》ロマン・トゥルブレ(Tara Océan財団のエグゼクティブディレクター)
   タラ号の活動紹介や現在行っている調査、世界の海の現状、マイクロプラスチックについて講演します。

 2.パネルディスカッション
  《ファシリテーター》
   ・日比野克彦(アーティスト・東京藝術大学学長・タラオセアンジャパン理事)   
  《パネリスト》
   ・ロマン・トゥルブレ(TaraOcéan財団エグゼクティブディレクター)
   ・青木義英(せとうち観光専門職短期大学学長)
   ・三豊市長 山下昭史

「海と地球の未来を考えるシンポジウム」(チラシ)

2022.11.04 【瀬戸内ふれあい紀行】来島者の声をお届けします [伊吹島編]

瀬戸内海、ど真ん中。良質なカタクチイワシの煮干し「伊吹いりこ」の生産が盛んで、全国的にも有名な観音寺市の伊吹島は、観音寺港から旅客船で25分の場所に位置します。島の玄関口、真浦港には多くのいりこ漁船が浮かび、海岸沿いには加工場が立ち並びます。獲れたイワシが高速の運搬船で加工場へ送られ、すぐに加工されることから鮮度が高く、「日本一の最高級いりこ」と言われています。

こうしたいりこ漁を基盤とする島独特の暮らしや風俗から着想を得た海外アーティストが作品を展開しています。また島ならではの手作り料理も味わうことができます。

真浦港から急な坂道を上り、島の集落を歩くと、細い道がくねくねと曲がっています。まるで迷路のような路地を通り抜けると、アート作品に出会います。


ib08《ものがみる夢》 KASA アレクサンドラ・コヴァレヴァ&佐藤敬(ロシア、日本)

真浦港から徒歩10分。島の高台に建つのは旧伊吹小学校。校舎の2階の教室では、伊吹島の暮らしを支えてきた道具を用いたアート作品から、残存する島の漁労文化を体感できます。

[海の庭]
この教室では、いりこと鰆(さわら)の漁網が張り巡らされています。

網をじっくり見つめ、「作品が本物の海のように思えました。」と表現するのは、栃木から4泊でお越しの50代女性。「海なし県から来たので、瀬戸内海に感動しました。実に明るく綺麗で穏やかです。そんな海の景色と一体となった作品に感動しました。奥行きがあり、日本庭園の借景みたいですね。」と喜んでいました。

東京から訪れた50代男性は「波のような網が何層もあって、床がすぐ見えず、深く感じました。作品の奥で船霊(ふなだま)が見守っている感じもいいですね。曇でも、海のかすんだ雰囲気がこの作品に合います。」と満足そう。「伊吹島はいりこだけでなく、鰆もすごいんだなと実感しました。」と話していました。

[島の庭]
赤、黄、緑、青、紫などで彩られたのは園芸用の網。網の上には、食器や柄杓(ひしゃく)、釜などが置かれています。

部屋を何度も往復するのは、高松から来た小学3年生の男の子。「カラフルでお花畑みたい。迷路のようでとても楽しかった~。」と嬉しそう。男の子の母親は「さまざまな色は島の四季を表現しているかのようですね。グラデーションのようでとても素敵な空間です。まさにインスタ映えして、万人受けすると思います。」とにこやかでした。

じっくりと隅々まで鑑賞し、水が溜まった器を見つめながら「水不足に悩まされ、水をとても大切にしてきた島の生活が伝わります。」と話すのは横浜から訪れた50代女性。「ふんわりしていそうな網の上に丁寧に道具を載せる技術や発想もすごいですね。島の文化に触れる作品が好きです。」と笑顔を見せていました。

岡山から来た40代男性は「幻想的な雰囲気ですが、校舎から子供の声が聞こえてきそうなぬくもりも感じます。とても楽しめました。」と語っていました。


「うららの伊吹島弁当」

旧伊吹小学校の校舎への入り口付近では、島のお母さんたち手作りのお弁当を販売しています。「うらら」とは、「私たち」という島の方言。飲食できるスペースも用意されています。

島の自治会長さんは「島のみんなが心を込めて手作りした郷土料理です。おもてなしを感じてもらえたらうれしいなぁ~!」と強調します。

おいしそうに頬張っていた東京から来た50代女性は「やさしくて素朴な味。島の方の愛情を感じます。島の食材を生かした、ここでしか食べられない味ですね。足を運んでよかったと非常に満足できました。」と絶賛していました。


ib09《つながる海》 ゲゲルボヨ(インドネシア)

旧伊吹小学校から迷路のような坂を上って徒歩5分。約100年前に設置された旧郵便局の建物の空間に、インスタレーションを展開、インドネシアの6人のアーティストが手掛けました。壁にはインドネシアに伝わる神様のキャラクターなどが描かれ、牛の皮を染色した影絵も堪能できます。

影絵を熱心に眺めるのは大阪から訪れた30代男性。「牛の皮を染めるという発想は日本にないと思うので、斬新でした。照明の光を通し、素敵な雰囲気です。裏側までいろんな暖色が楽しめますね。」と和紙に描かれるものとは違った面白さを話していました。

東京からお越しの30代女性は「髪の毛が生えた魚をはじめ、描かれたものには意外性があり、シュールな印象を抱きますが、じわじわと面白さや優しさも伝わってきます。異質な組み合わせにも違和感がありませんね。仏教的な要素を感じるアジアの素晴らしい空間です。」とじっくりと鑑賞していました。

「6人それぞれの個性がうまくまとまっていて、不思議なくらい統一感がありました。」と語るのは京都から来た50代男性。旧郵便局の装飾にも着目し、「昔ながらのガラスや欄間(らんま)、照明のデザインなども作品とうまく調和していて、素敵ですね。」と感想を述べていました。


ib05《伊吹の樹》 栗林隆

伊吹島ではかつて出産前後を女性だけで集団生活し、家事から解放されて養生する風習がありました。この命の誕生の場である出部屋(でべや)の跡地に、母胎を表現する大きな「生命の樹」があります。

《つながる海》から歩いて10分。狭い路地を通り抜け、やっと辿り着きます。

天井の空を見上げ、万歳のポーズをとるのは丸亀から来た30代男性。「インスタグラムで見て訪れてみましたが、この迫力は実際に来てみないと分かりませんね。光が差し込み、ミラーの輝きも体感できます。ここまで汗をかいて到着した甲斐がありました!」と感動を語っていました。

愛媛からお越しの40代女性は「自分が今にも空へ飛び出していきそうな不思議な感覚がしました。産道は未知の世界ですが、自分も生まれた時はこんな光景だったのかな。子どもにとって自分の産道もこんな感じだったのか、想像するとワクワクします。」と笑顔を見せていました。


ib10《浜辺の歌》 マナル・アルドワイヤン(サウジアラビア)

真浦港から海岸線を10分ほど歩くと、古い旧造船所に辿り着きます。この場所で、サウジアラビアの作家は、母国で船乗りの安全を祈願する儀式を伊吹島の人と一緒に行いました。ナツメヤシの葉で編んだ籠を松明(たいまつ)のように燃やし、海で炎を鎮めます。

展示空間では、儀式で使われたナツメヤシが展示され、スクリーンに儀式の様子が映し出されています。
「ここには海から戻ってくる方を歓迎する雰囲気があります。海の存在によって、男女の結びつきが緊密になったと感じました。」と話すのは、大阪に住む20代の中国人留学生2人組。

ナツメヤシをじっくりと見つめ、「焦げ跡がはっきりしたものや薄いものもあります。祈りもそれぞれ個性があるんですね。」としみじみと語っていました。

スクリーンの映像に夢中になっていたのは、横浜からお越しの50代女性。「祈りは万国共通だと実感しました。聴こえてくるアラビア語の歌に初めはなじみがありませんでしたが、映像を見ていくうちに、親近感を抱きました。」とほほ笑んでいました。


儀式が行われた海辺で写真撮影に夢中になり、「まるで自分がサウジアラビアの海にいるかのように感じてワクワクしました。」とすがすがしい表情を見せるのは、広島からの30代男性。芸術祭初開催の2010年から毎回、全ての島を巡ったそうです。「瀬戸芸は生きる糧で、毎回楽しみにしています。この美しい海の景色や充実した作品を見て、あと3年、また頑張ろうという気分になりました。」と嬉しそうに語っていました。

島ならではの産業や生活を体感でき、異国情緒漂うアート作品も楽しめる伊吹島。行けば必ず元気をもらえます。

(続く)

2022.11.02 【瀬戸内ふれあい紀行】来島者の声をお届けします [粟島編]

空から見ると船のスクリュー型の粟島。粟島港には須田港からフェリーで15分で到着します。

明治時代に日本初の海員養成学校が誕生した三豊市の粟島。かつて船乗りになるために多くの若者が島にやってきたことから、島には若者を受け入れる文化があります。

旧粟島中学校を拠点とする「粟島芸術家村」では、2010年から市の主導により、若手アーティストが島に滞在し、島民と交流しながら一緒に作品を作り上げています。文化芸術による地域活性化を目的としている取り組みです。


aw01《瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト 一昨日丸(おとといまる)》 日々野克彦

瀬戸内海周辺の海底遺物を探し、展示する「瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト」。その作品の一つ、「一昨日丸」は海に浮かぶ美術館です。化石、コップ、靴など、海底から引き揚げられた遺物とその関連の品々を展示しています。土日祝日には乗船できる運航イベントを開催しています。

運航イベントでは約30分間、船に乗り、粟島沖を旅します。運航途中で停止して、参加者は目を3分間閉じて、船に搭載されたクレーンのワイヤロープが海底までどのように辿り着くかを想像します。この想像した光景を描く企画も楽しめます。

オレンジ色でほぼまっすぐな線を描いていたのは、東京からお越しの40代男性。「瀬戸内海の穏やかさをイメージしてこの線を描きました。こんなにゆったりとして綺麗な海は世界的に見てもここしかないと思います。この船旅では感性が研ぎ澄まされ、心が落ち着きます。」と嬉しそうに語っていました。

高松から来た小学3年生の男の子は、線が渦を巻くように虹色で描きました。男の子は「これは海が見てきた美しい記憶の線だよ。」と目を輝かせていました。

丸亀から訪れた40代女性は「船が止まっている時、波の音や起伏がとても心地よくて、胎内にいるような感じがしました。」とほほ笑んでいました。



aw04《粟島芸術家村》 佐藤悠、森ナナ

粟島港から徒歩約5分。「粟島芸術村」では、若手アーティストが今年の6~9月の4カ月間、島に滞在して、島の人や島に訪れた人と交流しながら作品を作りました。自身も制作に参加した70代の島のおじいちゃんは「この島にはよそから来た人を受け入れる雰囲気があります。みんなで力を合わせて完成した絵画をじっくりみてみてね!」と強調します。


粟島大絵地図 佐藤悠

幅10メートルの巨大な絵地図は、島民やボランティア、観光客がそれぞれ思い浮かべた粟島のイメージがつなぎ合わされ、1つの作品に仕上がっています。緑や黄緑、濃い緑、ピンク、赤まで彩られた山。綺麗な魚や波が描かれた海。さまざまな島の風景を楽しむことができます。

絵に夢中になっていたのは、愛媛から訪れた小学3年生の女の子。「とてもカラフルですごくきれい!いままで歩いて見てきた風景もかわいく描かれているね~。」と喜んでいました。

作品作りに参加し、山の模様を描いた丸亀から来た60代女性は「見事な仕上がりに驚きました。いろんな人が描き加えたのでぐちゃぐちゃしそうだけど、統一感があるからなんだか不思議ですね。」と感動していました。

横浜からお越しの40代女性は粟島への訪問が今回で3回目。「粟島は自然がのどかでほっとするんです。島の人が親切で居心地が良く、何度でも訪れたい島です。この絵は、そんな粟島の象徴だと思います。ずっと見続けていたい景色ですね。」と笑顔を見せていました。



いのちの声を聴く 森ナナ

作家の森さんは、粟島で島の人の狩りに同行。そこで獲れたイノシシから採れる膠(にかわ)と竹の煤(すす)を原料に墨を作りました。その墨を人に塗り、紙に人の姿を写し取りました。

万歳のポーズをとるのは三豊市から来た50代女性。「人の姿が今にも動き出しそうです。とても迫力があり、命を感じます。自分も体に墨を塗って描いてみたいです。」と生き生きと話していました。

東京から訪れた30代女性は「人の姿は、生き埋めになってポンペイの遺跡から見つかったような感じがします。とても斬新で驚きました。」と語っていました。


aw06《思考の輪郭》 エステル・ストッカー(イタリア/オーストリア)

さらに歩いて2分進むと、旧粟島幼稚園の中庭が白く塗られ、黒い線が描かれています。黒い突起もあります。

色々な角度から模様を見つめるのは三豊から訪れた20代女性。「白と黒の世界はシンプルだけど、はまってしまいます。目が錯覚し、段差があるのが分からなくなるのも面白いです。」と嬉しそう。

愛媛から来た20代女性は「規則的でない模様が楽しいです。実際に見るより、写真で見た方が立体的に感じるのが不思議です。」と写真を見返す楽しみを話してくれました。


aw13《「い・ま・こ・こ」》 アデル・アブデスメッド(アルジェリア/フランス)

旧幼稚園から港の反対にある西浜を目指して徒歩約10分。古民家に靴を脱いで入り、暗い部屋の中を進んでいくと、ロウソクと足元を映した映像が現れます。画像をしばらく眺めていると、「バンッ!」という音とともにロウソクが足に踏み潰されるシーンが繰り返されます。

大阪に住む70代南アフリカ人男性は「ロウソクには生きる力を感じたので、消えた瞬間は悲しい感じがしました。」さらには「子供の頃、ロウソクのあかりを頼りに勉強していたので、とても懐かしかったです。この家のひっそりとした雰囲気に合った映像ですね。」と話していました。

何度もこの映像を眺めるのは福岡から来た20代女性。「日本ではロウソクは吹き消すもので、足で踏むという発想がないと思います。異世界にいるような感じがして、とても面白かったです。」と驚いた表情でした。

高松から訪れた50代女性は「タイミングは自分では分からないけど、いつか突然死ぬかもしれない。実は死ぬために生きているんだということを実感しました。」と語っていました。


aw12《スティルライフ》 マッシモ・バルトリーニ(イタリア)

古民家の隣の草むらを進んで現れる池には、蓮(ハス)の花が描かれた花瓶が浮かべられています。伝統的な西洋絵画の題材とされる「静物」(スティルライフ)の代表的なモチーフは、室内に置かれる花瓶です。この「静物」の内と外が逆転。花瓶の外に水、その外には植物(エビスグサ)の群生が広がります。

池をじっくりと眺めるのは、新潟から来た40代男性。「瓦(かわら)を使って池を作るという発想が斬新ですね。秋ならではの虫の声と調和する癒しの空間です。」と笑みを浮かべていました。

粟島を訪れるのは今回で3回目だという福井に住む40代女性は「この作品には圧倒されず、緊張感を抱かないからこそ、自然体でアートに親しむことができます。内と外を逆転させた発想に初めて触れ、楽しめました。」さらには「雨の時も想像すると楽しくなります。水面に波紋が美しく広がっていきそう。ずっと眺めていたいアートです。」と語ってくれました。


aw01《瀬戸内海底探査船美術館プロジェクト Re-ing-A》 日比野克彦

西浜が見えてくると、レンガで作られたゾウが海に浮かんでいるのに気づきます。このレンガは、粟島沖の海底に沈んだ船から引き揚げたものです。

砂浜にしゃがんで撮影に励むのは千葉からお越しの40代男性。「美しい砂浜に綺麗な海、広くて澄み切った青空、穏やかな波。こんな絶景はそう見られるものではありません。ゾウが海に浮かんでいるのはシュールな印象ですが、周りの景色に溶け込んでいて楽しいです。」と笑顔でした。

「あのかごを解放すると、ゾウがただのレンガとなり、ゴミとして海に流れてしまいますね。」と話すのは丸亀から来た40代女性。「海の中は見えませんが、魚たちがゴミを食べたらどうなるか。あのゾウは私たちに、地球環境のことをきちんと考えないといけないという警鐘を鳴らしているんだと思います。」と語っていました。

明るい雰囲気の粟島。島のどこかに寛容さを感じます。
(続く)

2022.11.01 瀬戸内国際芸術祭にて、大島と男木島それぞれで作品発表を行ってきた山川冬樹と村山悟郎がコラボレーションを行い、2022年秋に収録したパフォーマンス映像作品《大島_男木島 Inter-Island Timescapes》を発表します。


島のほぼ全体がハンセン病療養所となっている大島では、かつて隔離から逃れ海を泳いで逃走しようとする者が後をたたなかったという。山川冬樹の『海峡の歌』(2019)では、人間が自由を求めて生きながらえようとする、その切実な生の在り方がモチーフとなっていた。他方、瀬戸内一帯には野生のイノシシたちが生息しているが、しばしば島から島へ海を泳いでわたる様子が目撃されている。もしかすると身命を賭しても自由を求めて生きようとする本能において、野生のイノシシたちと私たち人間は根底で響き合っているのかも知れない。

大島と男木島は直線距離で約4キロ離れている。両者は隣りあいながらも海で隔てられ、それぞれ異なる時間、文化、歴史と記憶、そして未来を持っている。山川と村山はこれら二つの島と島の間=Inter-Islandに存在する差異と隔たりに文字通り向き合いながら、そこに生起するものに賭け、海を越える二頭の"イノシシ"となって交信を試みる。


Timescapes(時間の風景)
島には特有の地勢があり、固有の時間性があらわれる。男木島では、戦後の引き揚げによって興隆した昭和の街並みが今もそのまま残っている。豊玉姫神社を中心にして山の斜面に集落をなし、迷宮のように細道が入り組んで、まるで開発を阻むかのようだ。野放しの廃屋には、たくましく植物が生い茂って、島全体がタイムカプセルのように時の流れを留めている。また、芸術祭の影響もあって移住者も少しずつ増えはじめており、2014年には男木小中学校が再開するなど、新たな世代も育まれつつある。

一方、大島は明治42年に「第四区療養所」が設置されて以来、島のほぼ全体が国立病療養所大島青松園となっている。「らい予防法」が平成8年に廃止されて以降、現在も38人の入所者が暮らしているが、島では子をもうけることが許されなかったため、記憶の継承と将来構想が大きな課題となっている。大島は重い歴史を宿す島でありながら、島内に漂う空気はカラっと爽やかで、中央に広がる平地には真新しい施設が建ち並び、公園のように隅々まで手入れが行き届いている。それは過去を消し去りながら環境が日々更新されているかのようで、男木島の"昭和"を留めるタイムカプセル性とは対照的である。しかし一見人工的に見える大島の風景は、島に隔離を強いられた者らが処遇改善を求め、長年の闘いの末に国から勝ち取った「時間の風景」であることを忘れてはならない。このように島の景観一つをとっても、男木島と大島に流れてきた歴史的時間の差異を見てとることができる。


また日常的にそれぞれの島と四国本土とを結ぶ定期船の存在は、時刻によって厳密に規定された時間感覚を島にもたらしている。時間に追われながら芸術祭を鑑賞する者は、島民や入所者らとはまた異なった時間感覚を生きることになる。船の定期的な往来は寄せては返す人流をつくり、島のバイオリズムの一部を成す。島の静寂に耳を澄ませば、穏やかなサウンドスケープのなかに、活発な島社会の律動を感じることができるだろう。

さらには両島に流れるそれぞれの時間を一つの大きな時の流れが包み込むように、日の出・日の入りのサイクルや、気候や気象変動のダイナミズム、天体の動きに伴って生じる潮の満ち引きが関わっている。島の漁師たちは瀬戸内海の急激な干満差に自らの生活をカップリングさせながら仕事をするだろう。太陽光は空間に色や温度といった情態をつくりだし、朝もやから夜の闇へと至るその緩やかな変化もまた、主観的な気分の変化を連れだって特有の時間感覚をつくりだすだろう。

このように島の固有な時間とは、歴史の顕れとしての景観はもちろんのこと、時計によって示される近代的時刻(クロノス)や社会的情態(ノモス)としての音景だけではなく、自然のマクロなリズム(ピュシス)や、主観的な情動の変化率(カイロス)など、様々な時間の様相がポリリズム的に混成してあらわれている。

山川と村山は大島と男木島で固有に生成されるこれらの多元的な時間を、己の身体で媒介しながら結び合せ、アンサンブルを奏でるようにパフォーマンスやドローイングを重ねていくことで、島と島の間に生起するTimescapes=時間の風景を描き出す。


動画はこちら
https://player.vimeo.com/video/765979502?h=f0ce1c3222&badge=0&autopause=0&player_id=0&app_id=58479


《大島_男木島 Inter-Island Timescapes》


企画・出演・制作:

山川冬樹 Fuyuki Yamakawa
村山悟郎 Goro Murayama


撮影(大島):

稲田禎洋 Yoshihiro Inada


撮影(男木島):

渡邊元 Hajime Watanabe


編集:

稲田禎洋 Yoshihiro Inada


音響:

山川冬樹 Fuyuki Yamakawa


撮影アシスタント:

大橋真日菜 Mahina Ohashi
張子宣 Tzuyi Chang


イカ釣り:

中野達樹 Tatsuki Nakano


マネジメント:

笹川尚子(こえび隊大島担当) Shoko Sasagawa (Koebi Network)
岡本濃(ART FRONT GALLERY)Koi Okamoto (ART FRONT GALLERY)


ラップ『海をわたれ、イノシシたれ』

作詞:山川冬樹、村山悟郎
作曲:山川冬樹


引用:

『白描』(昭和14年)明石海人著
『豊玉姫伝説』男木中生徒会(豊玉姫神社)
『青松 2022 7・8月号(通算第713号)』国立療養所大島青松園協和会発行


猪動画提供:古市祐士 氏(フルネットサービス)Yuji Fruichi (Full Net Service)


山川冬樹
やまかわふゆき
(日本)

身体や声と社会や環境の関わりを探求しながら、美術、音楽、舞台芸術の境界を超えて活動。他の代表作として個とマスメディアの記憶を巡るインスタレーション『The Voice-over』(2008年/東京都現代美術館蔵)などがある。己の身体や声を駆使したサウンド・パフォーマンスを得意とし、これまでに16カ国で公演を行う。

【主な作品・展覧会など】
2021  パフォーマンス《Found in Odawara》クリスチャン・マークレーとのコラボレーション神奈川県、江ノ浦測候所
2021  展覧会《3.11とアーティスト 10年目の想像》グランギニョル未来のメンバーとして茨城県、水戸芸術館
2017  展覧会《Japanorama 1970年以降の新しい日本のアート》フランス、ポンピドゥー・センター・メス
2017  展覧会《ヒツクリコ ガツクリコ ことばの生まれる場所》群馬県、アーツ前橋
2015  横浜文化賞 文化・芸術奨励賞


村山悟郎
むらやまごろう
(日本)

1983年東京生まれ。アーティスト。博士(美術)。東京芸術大学油画専攻にて非常勤講師。東洋大学国際哲学研究センター客員研究員。自己組織的なプロセスやパターンを、絵画やドローイングをとおして表現している。

【主な作品・展覧会など】
2022  Drawing-Plurality 複数性へと向かうドローイング<記号・有機体・機械>(PARCO MUSEUM TOKYO、東京)
2021  多の絵画(The POOL、広島)
2020  Painting Folding(Takuro Someya Contemporary Art、東京)
2019  あいちトリエンナーレ 2019(愛知県美術館、愛知)
2019  瀬戸内国際芸術祭2019(男木島、香川)

2022.10.22 香川県では瀬戸内国際芸術祭2022に合わせて「県内周遊事業(ハッシュタグキャンペーン)」を実施中!

締切迫る!
香川県では瀬戸内国際芸術祭2022に合わせて「県内周遊事業(ハッシュタグキャンペーン)」を実施中!
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瀬戸内国際芸術祭2022の秋会期に合わせて、香川県内にある魅力的な観光スポットやアートスポットを訪れてみてはいかがでしょうか。そして、写真をカシャ。その写真をInstagramに投稿して香川県の新たな魅力を発信していきましょう!

キャンペーンの応募方法は、Instagramで「@artsetouchi」をフォローして撮った写真に「#瀬戸内国際芸術祭2022」と「#県内周遊(指定の3桁番号)」を付けて投稿するだけ!

投稿された写真は、香川県ホームページなどでPRに使用させていただきます。

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詳しくは、「瀬戸内国際芸術祭2022『県内周遊事業(ハッシュタグキャンペーン)』」で検索、またはhttps://www.pref.kagawa.lg.jp/setouchi/setouchi-artfest/kennai2022.htmlをご覧ください。

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